Research Abstract |
今年度は,学内の役職の関係で,聞き取り調査に必要なまとまった時間が取りにくかった。そこで,文献,統計資料の収集,分析,既に行った聞き取り調査の結果を整理する作業に重点をおいた。特に,後者については,既存の高度経済成長期に関する文献などと照らし合わせ,熊本,水俣の状況との異同について検討を行った。全体として,大都市部には遅れるものの,熊本,水俣地域でも,高度経済成長とともに,社会の様々な側面において,大きな変動が起きていることが読み取れた。 後半は,特に結婚,出産の変化に焦点を当てて,文献,資料,聞き取り調査の整理を行い,その結果を論文としてまとめる作業を中心に行った。まず,水俣においても,親,親戚などの選択に依存する紹介婚から,一定の交際期間をとった恋愛婚へという変化が見られるとともに,結婚式が自宅から自宅の外へと場所を移すこととなった。それは,専門の式場を利用する商業化の流れと,会費制のような共同化の流れという二様の変化があった。しかし,後者といえども,狭義の結婚式の部分は,地縁,血縁を中心とした従来通りの形式で営まれるなど,慣習的な部分を残しており,その変化は漸進的であることがわかった。 出産についても,自宅から病院へ,助産婦から医師へといった変化が急速に起きていたが,その変化は一様とは言えず,タイムラグをともなうような形で進行していたと思われる。 そして,こうした結婚,出産といった場面でも,水俣病が集中的に発生した地域を除いて,水俣病の影はほとんど見られなかったのである。
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