2007 Fiscal Year Annual Research Report
死生観からの福祉国家研究-共同墓をめぐるスウェーデンの宗教教育と日本の共同慰霊
Project/Area Number |
19530478
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
大岡 頼光 Chukyo University, 現代社会学部, 准教授 (80329656)
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Keywords | 死生観 / 宗教教育 / 福祉国家 / 共同墓 / スウェーデン / プロテスタント / 人権 / 市民宗教 |
Research Abstract |
家族の枠を越える共同墓や共同慰霊等に見られる死生観が、福祉国家を支えうるかどうかを、スウェーデンの宗教教育と日本の共同慰霊の現地調査を通じて明らかにすることが本研究の目的である。 スウェーデンでは、現地の研究者の協力を得てスウェーデン語によるアンケートを作成した。そのポイントの一つは、遺骨灰をまいた場所を家族が知ることができない共同墓において、自分の知っている死者だけを私的に追憶するのか、それともすべての死者に祈りを捧げるのかという点である。そのアンケートを用いてスウェーデンの高校において予備調査を行った。150ほどの回答が得られ、現在分析中である。また、日本では、現代的な共同墓である「桜葬」(墓石の代わりに桜を共同の墓標とする)のメモリアルに参加した。読経の時には手を合わせる人が少なかったのに対し、メモリアルで音楽が流れた時には多かったのが印象的であった。 研究発表の図書にあげた論文では、公共的な老人介護サービスの最終的根拠は、すべての老人に「聖なるもの」を見出す、デュルケムのいう「人格崇拝」を展開した論理であり、それは「ケアの権利」という世俗の人権を宗教的レベルで支える観念であることをまず明らかにした。そのうえでスウェーデンで人格崇拝の論理が受容された社会的文化的な背景を探った。1960年代以降、スウェーデンでは家族にたよらない公共的な老人介護と並行して、家族と死者の縁を絶つかのような共同墓が広がった。老人介護とならんで死後の福祉もすすんだのである。国教会だったスウェーデン教会(ルター派プロテスタント)は、共同墓ほ異教的だとして反対し続けたが、共同墓は、生者である家族が死者の冥福を祈ることはできないというプロテスタントの教義をむしろ徹底したものであり、福祉国家をささえる市民宗教を表す文化的装置であった可能性を指摘した。
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