2009 Fiscal Year Annual Research Report
死生観からの福祉国家研究-共同墓をめぐるスウェーデンの宗教教育と日本の共同慰霊
Project/Area Number |
19530478
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
大岡 頼光 Chukyo University, 現代社会学部, 准教授 (80329656)
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Keywords | 死生観 / 福祉国家 / 宗教教育 / 共同墓 / スウェーデン / プロテスタント / ルター派 / 非人称の連帯 |
Research Abstract |
スウェーデン福祉国家の宗教的基盤を探った。福祉国家の根拠の一つは効率性である。児童福祉は労働力を再生産し効率性を高めるが、高齢者福祉が高めるかどうかは不明だ。高齢者福祉を充実させるには効率性以外に、すべての老人に「聖なるもの」をみるデュルケムの「人格崇拝」が必要という視点から、共同墓を研究した。スウェーデンでは高齢者福祉と平行して、死後の福祉を家族に依存しない共同墓も広がったからだ。 第一に、スウェーデンの高校生に量的・質的調査を行った結果、スウェーデン教会(ルター派プロテスタント)と比べ、無宗派は墓への責任は社会にないと多くが考えていた。共同墓は、親子等の人称的な関係に頼らず、見知らぬ者同士が国家や自治体を媒介に助け合う「非人称の連帯」を象徴する。また、墓への灯火経験がある者の方が、墓への責任が社会にあると考える傾向がある。スウェーデンでの「非人称の連帯」が、生者が私的な情愛を感じる死者だけを追憶する「私的追憶」から出てきたように、すべての先祖を祀る先祖崇拝から「私的追憶」へ変わりつつある日本でも「非人称の連帯」が生まれる可能性がある。 第二に、スウェーデンは第二次大戦後の好景気で「豊かな社会」となり、貧困層でなく特に中間層向けの福祉国家をつくった。国家や自治体による介護・保育等の社会サービスを充実させ、家庭の責任を緩和させる「脱家族化」もすすめた。「脱家族化」につながる社会サービスの一種の共同墓も、貧困層のためではなく中間層のためだと解釈された。プロテスタントが強ければ女性が労働力化する傾向があるが、北欧だけで社会サービスが広がり、アメリカでは広がらなかった。その理由は、同じプロテスタントでも、ルター派の北欧は、予定説により貧者を罪人とみるカルバン派の強いアメリカとは労働観が違うからである。 研究成果の一部は出版社で編集中で、また北欧社会学雑誌への投稿のため英文校正中である。
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