Research Abstract |
所得や教育年数など社会経済的地位による健康格差については,国内外で研究が蓄積され,その経路として,生活習慣,環境,医療アクセスの違いなどが指摘されている。近年,日本の医療制度改革により,医療費自己負担が増加し,必要な医療が抑制される可能性が危惧されている。本研究の目的は,受療を制限する要因(自己負担医療費,医療機関への距離など)について探ることである。 使用した日本データは2006年のAGES:愛知老年学的評価研究である。社会経済的地位をあらわす変数として,年間等価所得(世帯所得を世帯人員の√で割ったもの)を,受療行動としては,健診受診,かかりつけ医の有無,治療疾患を用いた。その結果,約70%の高齢者が何らかの疾患(多い順に高血圧,視力障害,関節疾患、神経痛,心疾患,糖尿病)で治療を受けていた。その中で,過去1年間に必要な治療を控えた者はおよそ12%にのぼった。理由として,待ち時間が長い,医者に行くのが好きでない,かかるほどの病気ではない,費用がかかる,医療機関がない、遠いなどがあげられた。かかりつけ医の有無,健診の受診状況については,明らかな所得差はみられなかった。 年齢を調整した上でも,所得が低い層で,治療中の者の割合が高く,費用や距離などの理由で医療を控えた者が有意に多かった。これは,医療アクセスに関して,費用、距離の両面で,所得の低い高齢者が不利な状況にあることを示している。今後は,疾患の種類,予後を踏まえた検討も必要である。 受療行動の日米比較については,米国の研究協力者により提供された2003年のCommunity TrackingStudy Household Surveyを使用し,基礎解析を開始した。その結果,日米では、所得・教育年数と受療行動の関連が若干異なることが示唆されたが,経済的な理由から治療を控えた高齢者は両国とも所得が低いほど多かった。
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