2009 Fiscal Year Annual Research Report
構造化個体群動態学の数学的理論とその感染症数理モデルへの応用に関する研究
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19540116
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 寿 The University of Tokyo, 大学院・数理科学研究科, 准教授 (80282531)
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Keywords | 基本再生産数 / 感染症数理モデル / タイプ別再生産数 / 次世代作用素 / 弱エルゴード性 / 繁殖価 |
Research Abstract |
人口学、疫学における基本再生産数の概念は、ホスト個体群の動態率や感染率が時間に依存しない自律系の方程式にもとづいて定式化されてきた。一方、感染症の伝達率や媒介生物の個体群動態などには明確な季節性、周期性が存在する場合が少なくない。そうした変動環境における感染症流行ないし個体群成長の閾値条件を与えるような、基本再生産数概念の拡張が、これまでHeesterbeek and Roberts, Bacaer, Thieme, Wang and Zhao等の著者によって提案されてきた。本研究では、指数関数解と正システムの発展作用素の弱エルゴード性の概念に基づいて、周期系における解の漸近挙動が決定される条件を検討し、線形常微分方程式ないしはMcKendrick型の偏微分方程式で表される周期的パラメータをもつ個体群(感染症)モデルに関して、Bacaer, Thieme, Wang and Zhaoによる基本再生産数および次世代作用素の定義が汎流行侵入条件を定義するのに適切であり、自律系の基本再生産数概念の拡張とみなされることを示した。またBacaerが示唆したように、共役システムを考察することで、Fisherの繁殖価概念が周期系に関しても定義され、Edievの人口ポテンシャル概念が共役系の解に他ならないことを示した。また、特定の状態(種類)のホストによる二次感染者再生産に着目した場合の再生産数であるタイプ別再生産数の概念を、感染ホストの状態変数が連続的である場合に拡張して、非ターゲット感染個体群の再生産条件が劣臨界的である場合に、全ホスト個体群の閾値条件を定式化できることを示した。このような連続状態モデルは、年齢構造をもつ個体群におけるワクチン接種や隔離による根絶条件を導くために応用できることを明らかにした。
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