Research Abstract |
伝導性カイラル磁性体の理論:伝導電子からのスピントルク転送によって磁気位相キンク格子が全体として並進運動する機構を提案し,電流密度と磁気位相キンク格子の滑走速度を結びつける応答係数(sliding conductivity>を求めた.この結果に基づき,伝導帯のキャリア濃度をコントロールすることによりMKCの滑走の向きを制御できること(磁気カレントの整流機能)を明らかにした、さらに,伝導電子から磁気位相キンク格子へのスピントルク転送をボルン近似の枠内で議論した.●磁気位相キンク格子(MKC)滑走の基礎理論:連続模型で記述される磁気位相キンク格子が並進対称性を持つことは自明ではない,そこで,MKCがガリレイ対称性を持つことをLie対称性に基づいて証明し,磁化カレントがネータカレントとして導出できることを示した.また,MKCがひとたび滑走を始めると,キンク内部に磁化が生じ,これがMKC滑走のマーカーとして測定可能であることを示した.さらに,MKCの滑走を集団座標の方法を用いて定式化し,磁化カレントが流れる機構を提案した.●磁気位相キンク格子上を滑走する新ソリトン解:MKC上を滑走する孤立ソリトン解をの存在を,Backlund変換を用いて明らかにした.●磁気位相キンク格子の基底状態と素励起:MKC状態を基底状態とする素励起は並進対称性の破れに伴うフォノン的なもの(MKCフォノン)である.この励起が,外部磁場による磁気的ブリルアンゾーンの伸縮に伴ってESR信号の振動を与えることを示した.●電流駆動磁壁運動の理論:定常電流が存在する環境下で,磁壁による伝導電子の散乱に起因する電気抵抗を非平衡統計力学の手法(非平衡統計演算子法)を用いて解析した.また,スピン偏極電流からのスピントルク転送によって単一磁壁が動く機構を記述するため,適切な集団座標の選び方を示した,これによって,非断熱トルクの起源を微視的に明らかにした.さらに,単一磁壁の並進運動を記述する正準理論を,特異ラグランジアンに対するDirac処方を用いて構築した 以上の成果によって,結晶カイラリティに保護された環境下で,非対称・非線形・非平衡の組み合わせが紡ぎ出すスピン位相の物理を解明する基盤理論が構築できた.また,MKCを記述するカイラルサイン・ゴルドン模型は,楕円関数を用いて基底状態と素励起を厳密に解くことができる。つまり,キンクの内部構造から外場に対する応答までを,すべて厳密に解析することができる.また,キンクの個数は磁場の強さとシステムサイズによって決まるトポロジー的不変量となる.このように,本研究の対象は,解析・幾何・トポロジーという数理科学の基本概念を複合的に応用できる格好の舞台でもある.さらに,カイラル構造と物性機能の関係の背後には,より原理的な問題が潜んでいる,たとえば,伝導スピン(量子スピン)とMKC(準古典系)の結合の問題は,量子系と古典系の結合の問題であり,量子力学の根幹にかかわる,これらの問題は,カイラリティの概念が量子力学基礎論,素粒子論,固体電子論から生体機能の問題にわたる広範な領域に関与する事実に根ざしている,今回の研究では,カイラル磁性結晶の物理を理論物理学の問題として究明することに重点を置いた.今後は,実験研究との連携をより強化し,カイラル磁性結晶の物理を物質科学の新たな一分野として発展させていきたい
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