Research Abstract |
アスペリティの連鎖・連動破壊の状況を調べるために, 釜石沖の小繰り返し地震の破壊過程を詳細に解析した. この釜石沖では, 5年半程度の時間間隔で, M5弱の地震が繰り返し発生しており, このうち最近の2001年と2008年の地震について, 東北大学の広帯域地震観測網のデータと1Hzの地震計データを用いて震源過程の解析を行った. グリーン関数として近傍のM3級の地震を使い, 経験的グリーン関数法により地震時のすべり量分布の時間発展を調べた. 経験的グリーン関数法では, 本震とグリーン関数とする地震の両方からの地震波の初動を非常に精度良く読まなければならない. 二つの地震はどちらも0.3秒程度で破壊を完了するため, 初動の読み取り誤差は0.03秒程度以下にしなければならないが, 特にS波をこのような高精度で初動を読むことは困難である. ここでは, S波初動の到達時刻の二重差がP波初動の到達時刻の二重差のVp/Vs倍になるという性質を利用して, 高精度で初動を読み取ることに成功した. この高精度の読み取りデータと経験的グリーン関数法によって2001年と2008年の地震の詳細なすべり量分布を明らかにすることに成功した. 釜石沖のM5弱の地震の震源域の中で, M3-4級の一回り小さな地震が発生していることをすでに明らかにしていたが, 2001年の地震の直前にこれらの一回り小さな地震活動が見られたのに対して, 2008年の地震にはこの活動が見られなかった. 2001年と2008年の地震のすべり量分布を比較すると, 全体的には2001年のほうがすべり量が大きいものの, ちょうどこの一回り小さな地震の震源域に相当する部分で, 2001年の地震のほうがすべり量が小さいことが明らかになった. このことは, 釜石沖のアスペリティは階層構造を持ち, 一回り小さなアスペリティが本震の前の活動すると, 本震時にはそこのすべり量が小さくなることを意味しており, 地震前の活動状況を詳細に調べることによって近い将来に発生する地震のすべり量分布をある程度予想できる可能性を示している.
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