Research Abstract |
カオスに代表される複雑な非線形現象を体系的にとらえる手法の1つとして,分岐解析がある.微分方程式でモデル化される現象に対しては,平衡点と周期解の安定性を数値的に調べることにより分岐解析を行うことができる.常微分方程式の周期解の安定性は,変分方程式とよばれる微分方程式を解くことにより調べることができるが,既存の数値計算方法を適用すると計算結果に含まれる誤差が無視できないほど大きくなる場合があることが,初年度の研究によりわかった.特に,状態空間において周期解が平衡点付近を通過するとき,方程式は「硬い」常微分方程式の条件をみたし,精度の良い数値計算を行うことが難しい場合がある.この問題のポイントは,常微分方程式の解である周期解の計算結果の精度は良くても,対応する変分方程式の解である安定性の結果の精度が悪い場合があることである.そのため,硬い微分方程式に対する既存の高精度な計算方法を適用しても,周期解の精度を上げることはできるが,安定性の結果の精度を上げることはできなかった. 本研究では,2年目の課題として,変分方程式に対する精度の良い数値計算法を開発することを考えた.既存の変分方程式の計算方法の問題点は,初期値問題として定式化しているため,誤差が時間とともに蓄積し,その制御が難しいことにある.そこで,本研究では,周期解の性質を利用して,変分方程式を反復法で解くことにより,誤差を制御できる数値計算方法を提案した.また,常微分方程式である変分方程式の初期値を適切に設定することにより,数値計算中に発生する丸め誤差を軽減できることを示した.計算例として,Mathieu方程式とFitzHugh-Nagumo方程式に対して本研究で提案した方法を適用し,その有効性を確認した.`
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