Research Abstract |
本研究は, 昆虫の行動を制御する脳・神経機能の解明に向けて, 行動下にある昆虫の脳神経節の神経活動を光学的に測定することを目的とした。昨年度までに, マイクロインジェクション法によって, のフタホシコオロギ脳神経節へのAM体カルシウム感受性蛍光色素の導入に成功し, キノコ体傘部の神経活動をカルシウムイメージングすることに成功した。本年度は, 顕微鏡ステージ上で嗅覚-味覚連合学習を行う刺激装置を作成し, 同一標本から学習前後でのキノコ体のカルシウム応答を捉えることを試みた。条件付け前では, 蒸留水を通した気流にも条件刺激ペパーミントの匂い刺激にもカルシウム応答はみられなかったが, バニラの匂い刺激に対しては弱い応答を示した。ペパーミントの匂い刺激とショ糖溶液の味覚刺激を組み合わせた嗜好条件付け後では, ペパーミントの匂い刺激に対して弱いカルシウム応答を示し, またバニラの匂い刺激に対しての応答が増大した。嗜好条件付け後に続けて, バニラの匂い刺激と食塩水の味覚刺激を組み合わせた嫌悪条件付けを行うと, ペパーミントの匂い刺激に対するカルシウム応答はみられたが, バニラの匂い刺激に対する応答は消失した。嫌悪条件付け後のペパーミント匂い刺激に対する応答は, 嗜好条件付けのみを行った時に比べて, よりキノコ体傘周辺部に局所的な応答となった。以上の結果から, 嗜好性条件付けと忌避性条件付けではキノコ体神経活動の時空間パターンが変化することが示唆された。この結果は, 同一個体における学習前後の脳神経活動の光学計測に初めて成功した例であり, 今後さらに詳細な解析が期待される。また, 2008年10月に所属研究機関を異動したため, 研究室の移転・設営に時間が費やされてしまい, 残念ながら年度後半に予定していた歩行行動下でのイメージングは実施することができなかった。
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