Research Abstract |
当初の研究計画に基づいて,本年度は昨年度までに採集した標本の観察,測定,および筋肉組織からの分子生物学的研究を行い,また,東京大学総合研究博物館所蔵に所蔵されているアカアジのタイプ標本の観察を行った.これらの形態学的および分子生物学的データから,本属魚類の分類や種分化・系統についての解析を進めた.その結果,本属魚類の種構成は,従来想定されていたもの以上に複雑であることが明らかになった.特に分子生物学的解析から,Decapterus kurroidesとアカアジはそれぞれ有効種で姉妹群を形成し,D.kurroidesはフィリピンからインドネシアの西太平洋に分布し,アカアジは従来知られていた極東域だけではなく,ベトナム,インドネシア,およびアンダマン海にまで広く分布することが明らかになった.さらに,この2種と形態的にはよく類似するが,遺伝的にはかなり離れた種が存在し,これを新種として記載する準備を行った.また,マルアジとインドマルアジは分子生物学的研究結果でも別種であることが確実となり,この2種は姉妹群を形成した.しかし,両種は形態学的にはよく類似し,新たな識別点を明らかにすることが必要と考えられた.一方クサヤモロは日本沿岸からインドネシア,メラネシアまでの西太平洋域全体で遺伝子組成に大きな変異がみられず,種内でよく混合していると考えられた.同様の西太平洋域での遺伝的均質性はモロやオアカムロでもみられた.このように,西太平洋域の本属魚類の多くの種は広大な分布域をもち,遺伝的にもほぼ均質であるが,一部,マルアジのように,属全体の分布の縁辺部で種分化し,限られた範囲の分布域しかもたない種も存在することが明らかになった.本研究では,形態学的手法に分子生物学的手法を加味することによって,従来不十分であったムロアジ属魚類の種構成や各種の形態的特徴,分布域,系統関係を明確にでき,このことは極めて意義深いことと考えられる.
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