Research Abstract |
近年,イヌとヒトが直接的に接触する機会が増加し,イヌアレルギーが大きな問題となってきている。イヌアレルゲンとして,唾液腺で産出され分泌されるCanis familiaris allergen 1(Can f1),及びCan f2が同定されている。Can f1,及びCan f2は,それぞれ148,及び161アミノ酸残基からなり,一次構造の相同性より生体内における疎水性低分子輸送蛋白質群であるリポカリンファミリーに属することが予想されている。しかし,両蛋白質の構造やアレルギー発症のメカニズムはほとんど解明されていない。本研究では,円二色性分光法(CD),及びX線小角散乱法(SAXS)を用いて,Can f1, Can f2の構造解析を行い,同じリポカリンファミリーに属し,当研究室において詳細な構造解析が行われているリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)との構造比較を行った。 Can f1,及びCan f2は大腸菌を用いてその組換えタンパク質を発現させ,精製した。次に,pH7.0, 35℃の条件下,遠紫外CDスペクトルを測定し,DICROPROT 2000(Deleage G,et al.,1993)を用いて二次構造含量を計算した結果,Can f1,及びCan f2のα-helix,及びβ-sheetの含量は,それぞれ11.2%,及び36.6%,14.3%,及び38.8%となった。これらの結果は,CD,及びNMR解析から得られたL-PGDSの二次構造含量(14%,及び39%)と同程度の値を示し,β-sheetに富む構造を有することが判明した。さらに,SPring-8/BL40B2において,pH7.0,25℃の条件下SAXS測定を行った結果,Can f1,及びCan f2は,球状蛋白質であり,慣性半径はそれぞれ18.9Å,及び19.2Åと求められ,L-PGDSの慣性半径(19.4Å)と非常に近い値を示した。以上の高次構造解析結果からも,Can f1及びCan f2が,リポカリンファミリーに属することが示唆された。
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