2007 Fiscal Year Annual Research Report
初期黄檗僧の絵画制作への関わり-河村若芝の作画を中心に-
Project/Area Number |
19652013
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
赤木 美智 Osaka University, 文学研究科, 助教 (30403025)
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Keywords | 絵画史 / 河村若芝 / 黄檗宗 |
Research Abstract |
17世紀後半に渡来した初期黄檗僧、隠元隆〓、木庵性〓、即非如一の、主に絵画へ着賛された可能性の高い詩文を抽出し、実際に賛が残る絵画作品、とくに河村若芝の作品を検討することで、黄檗僧の絵画制作への関与のあり方を考察した。 語録中には、日本には定着していなかった「三国志演義」の登場人物、長寿を祝う「供寿図」などへの賛文が確認でき、初期黄檗僧周辺で新たな画題が好まれて制作されていた実態を再確認することができた。また、新出作品の河村若芝「達磨図」(個人蔵)には木庵が着賛しているが、賛文は既存のものに変更を加えたものであることが判明した。改変のあり方を考察した結果、描かれた達磨の姿に合わせて語句を変更し、結果、書と画を含む作品全体で伝法の意味を強く打ち出している経緯が看取できた。木庵と若芝が、絵画に新興宗教である黄檗宗の伝法の正当性を知らしめる役割を与えたことを如実に示している。 隠元の語録中で注目されるのは、日本へ渡来する自身を達磨が中国へ伝法のため東渡した姿に重ね合わせる語句が多数確認される点である。さらに三者のうち最も多く「芦葉達磨図」の賛文が遺されている。河村若芝の遺作中「芦葉達磨図」が最も多く描かれている点とあわせ考察すると、日本へ東渡した隠元はじめ初期黄檗僧が芦葉達磨(達磨)へ自身の姿を投影し、好んだことが若芝の「芦葉達磨図」量産の背景になったことを推測させる。なお、若芝は後期において、伝統的な画題である芦葉達磨を前例のない図像で描くという当時の画家としては特異な作画を行っているが、その背景を考えるうえで、このような黄檗僧の特定の画題への特別な思い入れの存在は重要と考えられる。 これまで若芝はその個性的な作風が注されがちであったが、一部の作品の制作背景には、初期黄檗僧の伝法に対する特殊な意識が存在したことが確認できた。これは17世紀画壇の一端を再考する足がかりになると考えられる。
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