2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19673001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五百籏頭 薫 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (40282537)
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Keywords | 政治学 / 政治史 / 条約改正 |
Research Abstract |
当該年度は、研究計画中の最大の目標であった『条約改正史-法権回復への展望とナショナリズム』の刊行を実現できた。単著ではあるが、これまで研究協力者と共に運営してきた研究会において、様々な行政領域の発展と条約改正交渉、そして両者の相互作用について蓄積した知見が、不可欠の素材となった。これが当該年度最大の成果である。 同書においては、日本の条約改正史について、法権回復交渉が営々と行われてきたという通念を改め、主目的であった行政権回復の挫折の反作用として法権回復への跳躍が敢行され、それが交渉の進展と国内の混乱・反発を併発したという力学を提示した。これは、研究計画の骨格となる仮説が概ね妥当することを実証したといえる。 さらに、ここでいう「行政」の内実が、地方ごとの統治の多様性という側面を後景化させ、画一的な文明化への対応という側面を前景化させたために、行政権回復が法権回復に対して有していた独自性を喪失していったことを、上記の跳躍の基礎過程として析出した。そして、こうした基礎過程を隠蔽しつつ促進した構造的な要因を、いわゆる明治国家が、プレ行政国家を本質としつつ、プチ立法行為(法典よりも小規模で雑多な行政規則を頻繁に制定すること)を中核的機能としていたことに求めた。これらの知見は、研究計画立案当初にはなく、本助成の下での調査と共同研究に負うものである。 以上の成果は、近代初発の日本の国家形成の一つの側面を政治外交史の観点から明らかにしたものとして、今後参照されていくものと期待している。 さらに当該年度は、上記のような条約改正交渉を念頭に置きつつ、研究代表者と研究協力者による、個別の行政領域に関する論考を集成した論文集の編纂を進めた。その成果の一端を、史学会シンポジウムの場を借りて公表し、討論の中で貴重な助言を得ることができた。
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Research Products
(2 results)