Research Abstract |
平成21年度は,鹿児島県徳之島トマチン遺跡の報告書作成にむけての考古遺物整理を行なった。また,作業に並行しながら,石棺墓の3D画像作成を行ない,また,専門の研究者を招聘して,膨大な量の出土貝類・脊椎動物遺体の同定を行なった。同定結果は,動物遺体が偏った種類で採取されているという結果が得られている。これが墓域という環境によるものであるのか,今後,全ての動物遺体を分析し,さらに検討しなければならない。 さらに,5にわたるトマチン遺跡の調査成果を地元に還元すべく,同遺跡の所在する伊仙町において学際シンポジウムを行なった。内容は,考古学,形質人類学・骨考古学,分子(DNA)人類学,窒素・炭素の安定同位体分析による食性復元から行ない,各報告者の講演後,一般市民からの質疑応答で終了した。墓の構造,遺物の交流の実態,埋葬方法,ミトコンドリアDNA,食性など,南西諸島や他地域との同質性とともにトマチン遺跡の特性も次第に明らかにされてきたと考える。これまでに奄美諸島では,葬墓制に関する自然科学分析を含めた総合的なシンポジウムが行なわれたことがなく,奄美諸島での先史時代葬墓制研究の皮切りとなると考えられる。 トマチン遺跡の特性に石棺墓内が三重構造になっているという事象がある。これまでにも国内研究者との意見交換からは,国内や朝鮮半島にも類似例はほとんどないと思われた。そこで本年度は,文献入手,研究者との意見交換を行なうため,台湾で資料調査を行なった。その結果,トマチン遺跡と類似する墓の例は見出せず,やはり類例は少ない可能性が示唆された。
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