Research Abstract |
慢性心不全は,自律神経系の異常(交感神経の緊張,迷走神経の減弱)が病態を進行させる主要因である。運動療法は自律神経異常を是正し,慢性心不全への治療効果が期待されている。しかしながら,治療戦略としての運動療法は,運動に対する自律神経応答の量的・時間的動態が,慢性心不全患者のみならず,健常人においても曖昧である等の理由で,臨床において本格的な実用に至っていない。 本年度は,運動療法が心臓自律神経系機能に及ぼす効果について健常動物モデルを対象に定量的に明らかにすることを目的とした。8週齢SDラットを用いて,中・高強度(走速度:18〜26m/min;傾斜15°)の強制トレッドミル運動を1日60分,週5日,12〜13週間行わせた。その結果,運動耐用能は対照群(n=8)と比較して運動群(n=12)において有意に増大していた(20±4vs.33±6min)。覚醒下における安静時心拍数は,対象群と比較して,運動群で有意に低値を示した(337±17vs.297±16bpm)。薬理的な自律神経トーヌス測定では,交感神経トーヌスに群間に差は認められなかったが(101±25vs.94±19bpm),迷走神経トーヌスは運動群で増大傾向にあった(43±19vs.60±13bpm)。心拍変動解析では,高周波(0.75〜3.3Hz)のパワーが有意に高値を示した(50.8±9.Ovs.77.7±10unit)。交感神経トーヌスの指標である,LF/HFは有意に低値を示していた(1.0±04vs.0.3±0.2unit)。次に,麻酔下において,交感および迷走神経刺激に対する心拍応答を測定し,伝達関数を用いたシステム解析を行い,心臓自律神経系への効果を検討した(対照群:n=8,運動群=n3)。その結果,交感およ.び迷走神経刺激に対する心拍応答システムには,運動療法の効果は認められなかった。
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