2007 Fiscal Year Annual Research Report
金属元素に起因する日本画和紙の焼け現象解明と新抑制法の開発
Project/Area Number |
19700666
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
星 恵理子 Tokyo National University of Fine Arts and Music, 大学院・美術研究科, 助教 (30376933)
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Keywords | 銅含有緑色顔料 / 緑青焼け / 岩緑青 / キレート剤 |
Research Abstract |
銅含有緑色顔料による紙の焼け現象において、絵画表面に塗布した岩緑青のCu成分が紙の裏側あるいは裏打紙に物理的にどのように拡散し、紙の劣化度合とどの程度相関しているのか、また、より激しい劣化を引き起こす真鍮箔による焼けの劣化機構はどのようになっているのかを研究した。 1.経年劣化試料の分析調査 緑青焼けの観察される江戸幕末の彩色版画1点および、箔散らし紙1点の分析を行った。SEM、EDXおよび三次元蛍光分光分析の結果、試料紙断面のCu元素の濃度分布は絵画面から裏面に向かって勾配を持っており、紙の表側から裏側に向かって拡散している様子が示された。 2.モデル試料の劣化促進試験 劣化にいたる過程を明確に追うため、現代の和紙と顔料で作成したモデル試料を加湿加温条件の劣化促進試験にかけた劣化過程を分析した。現代の和紙と真鍮箔のモデル試料は、加湿加温条件の劣化促進試験の他に、実物の文化財が通常置かれる環境に近い大気暴露試験も行った。SEM、EDX、三次元蛍光分光分析およびICPS分析の結果、裏打紙中のCu元素の濃度は、劣化時間の増加とともに増加した。これは紙の変色傾向と一致し、試料表面の顔料由来のCu元素が本紙、裏打紙へと移行し紙の変色を引き起こしていることを示した。また、真鍮箔試料の大気暴露試験後には、試料表面でCu,Znが減少し、逆に裏面では増加した。これは、真鍮が腐食されてCu、Znが拡散・浸透したことを示している。 3.薬品塗布による抑制法の開発 裏打紙への焼けの波及を遅らせ、裏打紙取替えの修復回数を減らすことで、本紙に対する修復時の負担を減らすため、裏打紙への薬品処置による焼けの抑制効果を模索した。使用薬品としてCuイオンのキレート剤を選択し、これを浸漬させた試料と、紙に対する中和効果のある薬品処置を施した試料を作成し、これを劣化促進試験にかけた。本試料については順次分析中である。
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Research Products
(1 results)