2007 Fiscal Year Annual Research Report
現代における危機の表象と怪物生成のメカニズムについての研究
Project/Area Number |
19710221
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
生駒 夏美 International Christian University, 教養学部, 准教授 (60365525)
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Keywords | 現代文学 / 宗教 / 家族 / サブカルチャー / メディア / 表象 / オウム真理教事件 |
Research Abstract |
本年度は主に文献収集を行い、特にオウム真理教事件については分析を開始した。 地下鉄テロ以前のオウム真理教については大別すると1)陰謀説(ロシアとの関連)2)麻原詐欺説3)宗教説 が存在したが、テロ後、マスコミの論調はもっぱら1)と2)に傾き、人々はオウム真理教を政治的な犯罪集団と断罪した感がある。しかし単なる政治的テロ集団という位置づけでは、説明しがたいものがそこに残っている。村上春樹をはじめ、『A』や『カナリア』などを含む実に多くのドキュメンタリー(風)作品が、元信者を基本的に無垢な被害者として扱い、それぞれの声を拾おうとしたのは、そのような説明しがたさを埋める努力であったといえるが、オウムの宗教的として捉えないと、そこに引き寄せられた日本人の問題をすくいとることはできないと指摘する。その点で大江健三郎の『宙返り』は、現代日本における宗教をテーマとして、教祖変節以後の信者たちの問題を中心に据えた点で、意義深いものである。 一方で甲南女子大の池田太臣講師は、オウムが宗教だけではやはり説明できず、サブカルチャーの一種として捉えるべきだと指摘する。確かにいわゆるオタクを引き寄せる要素として、オウム内部だけで通用するような語彙、特殊能力の重視などがあり、秋葉原のオタクカルチャーと共通する要素は多い。またオウム真理教信者の「いじめられっこ的」側面もそれに当たるだろう。 だが教祖麻原について、文学が語ろうとしないのはなぜか。世俗的文脈では怪物視されながらも、文学者たちは彼を避ける。そこに切り込んでいくことが必要である。彼の親子関係があまり語られないこと、またオウムが「家族」を壊したとしてバッシングされることからして、現代日本において聖域化されている「家族」を、オウムがなにかしら揺るがしたからこそ、あのような極端なメディア・パニックを引き起したのであろう。今後もこの考察は続けていく。
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