2007 Fiscal Year Annual Research Report
受容と制作のダイナミズム:新聞記事にみる川上音二郎の西洋演劇翻案
Project/Area Number |
19720031
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
若林 雅哉 Kansai University, 文学部, 准教授 (30372600)
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Keywords | 川上音二郎 / 翻案 / 演劇 / 小山内薫 / 女形 / 翻訳 |
Research Abstract |
平成19年度は、まず明治27年-31年(西洋演劇翻案劇『意外』・『又意外』・『又々意外』のシリーズから31年の『又意外』再演の失敗にいたる時期)を中心に、各種新聞資料(萬朝報、読売新聞、都新聞などの劇評)を調査した。西洋の事情に詳しい坪内逍遥や小山内薫などの当時の知識人が西洋演劇の"本場"の上演や台詞などとの比較から、川上の翻案劇を"まがい物"として貶めていたこととは対照的に、それらの劇評は、むしろ歌舞伎の様式や台詞まわしとの比較に関心をもっていた。このことは、川上音二郎による「歌舞伎受容層にむけての適応」としての翻案劇の傾向を間接的に明らかにし、さらには、そのような適応現象が受容者層に実感されていたことを示している。また明治の演劇における女優/女形の使用についても検討した。川上音二郎は、シェイクスピア劇の移植において貞奴(女優)を登用していた。これに対して、新劇(翻訳劇)陣営は当初女形を使用していた(とくに小山内薫の自由劇場)。この事情は、"川上を否定して"本格的"翻訳劇(新劇)へ"、という目的論的整理にはうまく回収されない。この点について、当時の劇評による女優の評判、また女形使用を論じる小山内の言説を検討した。"イプセンの老婆であれば女形でも十分である"という小山内の有名な弁解はあくまでもタテマエであり、そこには女優の現状に対する適応を見てとることが出来た。つまり、従来、翻案・適応を場当たり的な打開策と拒絶していた新劇陣営のなかにも、適応の様相は見いだしうるのである(この点は、関西大学・東西学術研究所にて、平成19年6月16日に口頭発表した)。
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