2008 Fiscal Year Annual Research Report
受容と制作のダイナミズム:新聞記事にみる川上音二郎の西洋演劇翻案
Project/Area Number |
19720031
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
若林 雅哉 Kansai University, 文学部, 准教授 (30372600)
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Keywords | 川上音二郎 / 萬朝報 / 翻案 / シェイクスピア / 演劇 / 批評 / 新劇 / 歌舞伎 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、平成20年度も、劇評と筋書を中心に新聞記事を分析し、川上音二郎による西洋演劇翻案の制作とその受容について考察した。各紙記事の分析から、受容の実際を再構成しようとする今回の研究にとって、(従来さほど重視されなかった)萬朝報記事が一般の受容のありようを示唆している点で示唆に富むことが明かとなった。というのも、当時の知識人が好み、また後の新劇陣営の演劇史記述が重視した時事新報の劇評と比較するとき、萬朝報記事は旧劇(歌舞伎)との比喩を多用し、当時の一般の観客の理解に訴えようとする傾向が顕著であったからである。これは、当時の観客が歌舞伎という枠組みのなかで西洋演劇翻案を理解しようとしていた事情を側面から照らすものであり、(「西洋仕込」を喧伝しつつも)つねに実際の受容を念頭において「日本化」を志した、当時の川上のマーケティング能力をも示しているといえるからである。平成20年度の研究費は、新聞記事の調査と考察のために主として充てた。 それに加えて、本年度は、J. Sanders、L. Hutcheonなどをはじめとする理論的諸著作にもあたり、翻案現象一般についての考察を深めた。川上演劇への過小評価は、新劇陣営による攻撃のみならず、翻案という現象そのものへのわれわれの過小評価にもよっている。川上の西洋演劇翻案もまた明治期の異文化接触の一環であり、オリジナル(シェイクスピア)からの「喪失」ではなく、受容層の理解の枠組み(明治においては歌舞伎)との関係から理解されるべきである。この点については、研究成果(共著『宝塚という装置』)のなかで考察の一端を示した。
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Research Products
(1 results)