2008 Fiscal Year Annual Research Report
身体の拡張としての道具を表すことばの対照言語学的研究
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19720088
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西田 光一 Tohoku University, 情報科学研究科, 准教授 (80326454)
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Keywords | 異物の自己化 / 再帰的表現 / 語用論 / 統語論 / 慣用句 / 指示の転移 / 照応関係 / 修辞表現 |
Research Abstract |
従来の言語研究では、譲渡可能所有物を表すことばと譲渡不可能所有物を表すことばの2分法が採用されてきたが、これは、人が道具などの譲渡可能所有物を自己の一部とすることが可能になった現代では、見直されるべきである。人は経験を通じ、自己の領域を身体部位から自分の社会生活を構成する道具や手段へ拡張することができる。この拡張に伴い、本来は身体部位を表すことばに特徴的に見られた表現が譲渡可能所有物を表すことばからも作られている。これは、譲渡可能所有物が文法的に身体部位に同化するという意味で、「異物の自己化」として把握できる。異物の自己化は、例えば「{青い瞳のサリー/サリーの青い瞳}が嬉しそうだった」のような身体部位名詞に特徴的な語順の交替が「閉会式では{汚れたユニフォームの北島選手/北島選手の汚れたユニフォーム}が誇らしげだった」のような衣服を表す名詞にも見られるといった言語事実に反映されており、特に人の自己について述べる再帰的表現に事例が多い。異物の自己化は語用論的な知識に基づく表現方法だが、再帰的表現に伴う照応関係を足ががりにして、異物の自己化を表す慣用句や指示の転移などの修辞表現に統語論的分析が与えられるため、ここから語用論と統語論の統合のモデルを示すことができる。さらに、異物の自己化は通言語的に観察できるが、どの異物が、どのように身体と同一視されるかという点では言語間の違いがある。異物の自己化について言語間での共通点と相違点を明らかにし、各言語の個別性、道具の由来と文化的背景、身に付けて使う道具から身体接触のない道具に至る身体との距離感、その距離感に伴う異物の自己化の段階と種類、新しい道具の創出とそれを表すことばの特徴といった項目で事例研究を積み重ね、人の生活習慣と文法の関係を明らかにすることができる。
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