Research Abstract |
本年度は,これまでの研究調査結果から,日本法への示唆を得ることに務めた。大陸ヨーロッパにおいては,株主の多数が賛成する会社の合併等に賛成しない株主も,株主総会決議に拘束されることを前提に,多数株主がその地位を濫用して,少数株主の利益を不当に害することに対する様々な法的手当が用意され,他方で,上場会社において支配株主の登場や交替が生じる場合,閉鎖会社において人的信頼関係が崩れた場合のように,限定的な場合にのみ個別に株主が会社から投資を引き上げることが認められる。他方,アメリカ法には,当初,合併等に株主総会の全会一致が求められていたところ,反対株主に株式買取請求権を付与することと引換えに,株主総会の多数決による承認をもって足りるものとされた,という歴史的経緯がある。わが国の株式買取請求権は,資本多数決による会社の合併等が可能であった法制上に,昭和25年改正によって,異なる制度的背景を有するアメリカ法から移植されたものである。我が国の合併等にかかる規律は,いずれの母法における制度的背景からも切り離されて発展したため,会社法の制定にあたり,(平成17年改正前)商法上に散在する株式買取請求権に関する規定から,「反対株主に株式の経済的価値を回収して退出する可能性が認められる限り,株主総会の特別決議によって,株主の権利内容をいかようにも変更し得る」という抽象論が導かれ,立法の基礎に紛れ込む余地が生じた。しかしながら,比較法的見地からは,少数株主の権利保護にかかる法的手当の全体像と無関係に,そのような一般論を支持することはできない。現行法の解釈としては,株主総会の特別決議の内容審査により,一定の歯止めを設けるべきである。会社法施行後,全部取得条項付種類株式を利用した少数株主の締め出しの事例も報告されているが,本研究は濫用的な利用を防ぐ一助となることが期待される。
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