Research Abstract |
本年度はまず,財務会計における,負債と持分の区分に関する問題領域の整理を試みた。負債と持分の区分の在り方は,負債の定義と持分の定義の組み合わせで決定される。しかし,会計の最終目的を,利益計算と規定するならば,負債と持分の区分から更に一歩踏み込んで,会計の利益計算構造全体の問題として,残高試算表での負債、持分、収益の区分まで考える必要がある。負債と持分の区分の問題は,これまでは貸借対照表の問題と考えられてきたが,当該問題は損益計算書における利益計算とも密接に関わる問題であるため,単に負債と持分を定義すればそれで解決するわけではなく,残高試算表の負債・持分・収益の区分を念頭に置きつつ,慎重に検討すべきであることを明らかにした。 つぎに,負債の会計の在り方について検討する手掛りとして,会社法や会社計算規則における負債の会計について検討した。会社法・会社計算規則では,負債の会計について,会計基準を追認する姿勢を示し,そして会計基準の将来の変更に対処できるようにしようとしている。従って,会計基準や会計理論における負債の会計の進展を検討する必要があるが,その中心課題は,負債の定義のあり方とその適用の方法であることが明らかになる。 そして,持分概念に関する検討の一環として,資本取引概念について検討した。現在,持分概念は資産から負債を控除した残余として定義されることが多く,また,資本取引は,「株主と会社との取引」と定義されることが多いが,それだけでは不十分である。そこで本研究では,株主と会社が交換する「株式」の経済的権利である「自益権」に着目し,資本取引概念について,「株主と会社との取引」からさらに一歩踏み込んで,「株主の自益権に基づく,株主と会社との資産、負債の移動」と定義する必要があることを明らかにした。
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