2008 Fiscal Year Annual Research Report
個人化する社会における新たなる社会的連帯の構築に関する研究-労働問題の心理学化-
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19730349
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Research Institution | Hiroshima Kokusai Gakuin University |
Principal Investigator |
山田 陽子 Hiroshima Kokusai Gakuin University, 現代社会学部, 講師 (10412298)
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Keywords | 個人化 / 社会的連帯 / 心理学化 / 自殺 / 労働 / 自己実現 / 医療化 / メンタルヘルス |
Research Abstract |
本研究の目的は、労働問題の「心理学化」に関する質的調査を行い、「個人化」する社会における社会的連帯の可能性について考察することである。労働者のメンタルヘルスやストレス・マネジメントに関する社会的動向に着目することを通して、「個人化」し、社会の姿が見えにくくなる中での社会的連帯をどのように考えていくのかという点について理論的・実証的に検討する。 本年度は、労働者の「心の健康」に関する政策や「自己実現」の現状について、日本国内のフィールド調査や資料収集を行なった。特に「心の健康」市場と「自己実現」の在り方について、ある自己啓発グループを対象として質的調査を行い、「個人化(Individualisierung)」(U.Beck,)や「連帯の新たなる哲学」(P.Rosanvallon)、「主体性の系譜学(N.Rose)」などの観点から考察した。ローズは著書『Governing the Soul(1999)』の中で、昨今の雇用の流動化と能力主義の経営管理は、労働者に自己実現という動機を与え労働の意味を「生活のための手段」から「自己実現や自己イメージの充足」へと転換したと指摘している。そして、そのような地平では、労働者の人格的成長と出世、企業の発展と成功が心理学的な言語によってひとつに纏め上げられていくという。このようなローズの一連の議論は、個人化する社会における労働問題の「心理学化」に関する有益な示唆を与えてくれるものである。フィールド調査および国内外の最新の研究に触れることによって、現代日本社会における「個人化」と労働問題の「心理学化」に関する研究の示唆を得ることができた。 本年度の研究成果は、現在、論文としてまとめているところであり、今年度中には学会報告も行う予定である。
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