2008 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパにおける社会計画論の新たな展開-「社会の質」アプローチの可能性と課題-
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19730358
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
平野 寛弥 Saitama Prefectural University, 保健医療福祉学部, 助教 (20438112)
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Keywords | 社会の質 / 社会政策 / 生産主義 / 社会的包摂 / 社会的凝集性 / 基本所得 |
Research Abstract |
今年度は, 第一に個々人の多様な福祉の実現と特定の規範・価値・アイデンティティに基づく社会関係の形成という「社会の質」の二つの目的の矛盾を明らかにし, 第二に「社会の質」が描く社会像が, 現代社会が直面する問題や制約と十分に適合的でないことを示すことを試みた. 第一の作業については「社会的排除」の問題を「社会の質」の概念枠組みを通して考察した結果, 下位概念としての「社会的包摂」と「社会的凝集性」に矛盾が見られた.特定の価値や規範に基づき社会関係を強化すれば社会的凝集性は高まるが, 同時にそれになじまない人々を排除する結果となり, 社会的包摂の達成を阻害する. これは「社会の質」を構成する諸概念が整合性を欠いており, 一つの「望ましい社会=社会の質」に帰結しえないことを意味する. 第二の作業では「社会の質」が想定する「社会経済的保障」の内容を検討した. そこでは人的資本としての能力向上やワークシェアリングの推進により, フレキシキュリティ(雇用の柔軟性と生活保障の両立)の実現が目指されるが, 雇用を通じた生活保障, 経済成長の要請という基本的姿勢は従来の社会政策と変わらない.この点は, 家事や介護など無償労働の評価向上や市民活動への積極的従事が要請される現在の状況に効果的な処方箋とはいえず, また資源保全の点からも懸念が残る. 以上の成果に基に「社会の質」に加えられるべき修正点を考察した. その一環として, 社会経済的保障におけるベーシック・インカムの導入の可能性を検討した. ベーシック・インカムの非排除性, 無条件性は社会的包摂の観点から歓迎されるとともに, 無償労働の対価としても位置付けられることからその社会的評価の向上に寄与することも期待される.さらに一定の所得が保障されることで市民活動やボランティアに費やす「時間」を創出することが可能となる.
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Research Products
(1 results)