2007 Fiscal Year Annual Research Report
強相関電子系における光誘起相転移の初期ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
19740176
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松崎 弘幸 The University of Tokyo, 大学院・新領域創成科学研究科, 助教 (80422400)
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Keywords | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 時間分解フェムト秒ポンプープローブ分光 / 遷移金属酸化物 / 有機半導体 |
Research Abstract |
光照射によって、物質の電子構造や巨視的物性が変化する現象は、光誘起相転移と呼ばれ、強相関電子系を中心に活発な研究が行われている。この現象の物理的機構を明らかにするためには、電荷・スピン・格子の各自由度の時間変化を正確に検出する必要がある。しかしながら、強相関電子系においては、これらの自由度の時間変化は、極めて高速であり、汎用の時間分解能200フェムト秒のポンププローブ分光測定では不十分であった。本研究では、これらの問題点を解決するために、時間分解能30フェムト秒のポンププローブ分光測定系を構築し、強相関電子系の光誘起相転移の初期ダイナミクスを明らかにすることを目指した。以下に、本年度の主な成果を述べる。 1.時間分解能30フェムト秒を有する高感度広帯域ポンププローブ分光測定系の構築 現有の30フェムト秒ポンププローブ分光測定システムでは、室温下で可視領域(530〜750nm)で過渡反射(または吸収)スペクトル測定が可能であった。本年度は、これを拡張し、次の性能を有するポンププローブ分光測定システムを構築した。(1)波長範囲:530〜1700nm,(2)可能温度域:4〜400K,(3)偏光:ポンプ光及びプローブ光が平行または垂直な配置,(4)測定感度:0.02%,(5)時間原点決定精度:±2fs 2.ペロフスカイト型マンガン酸化物における光誘起電荷/軌道相融解の初期ダイナミクスの解明 上記の測定システムを用いて、典型的な電荷/軌道秩序物質であるNd_<0.5>Ca_<0.5>MnO_3について、光誘起電荷/軌道相融解の初期ダイナミクスを詳細に調べた。その結果、電子相関の効果によって、時間分解能(30fs)以内に、瞬時に秩序相が融解し、その後、これに引き続いて、複数の酸素原子由来のコヒーレント振動が、発生することを見出した。特に、軌道秩序の安定化に重要なヤーンテラーモードに由来するコヒーレント振動が、相融解の初期過程で顕著に観測されることを明らかにした。これらは、秩序相の安定化に、隣接サイト間のクーロン反発と軌道秩序が重要な役割を演じていることを示す重要な結果である。
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