Research Abstract |
親水性の主鎖に沿って少数の疎水基を持つ高分子(会合高分子)は,水中で,主鎖上の疎水基同士を凝集させて物理ゲル化し,特徴的な粘弾性挙動を示すようになる.そのため,塗料,化粧品,インク,食品等の粘度調整剤として広く使われている.さらに,界面活性剤を添加すると,この系の粘弾性は大きく変化する.この粘弾性効果は,上記の粘度調整において重要な役割を演じる.そのため,この粘弾性効果の分子機構を明白にすることは純科学的にのみならず工業的にも大変意義深い.本年度は,界面活性剤がテレケリック会合高分子の線形粘弾性に及ぼす影響を理論的に調べた.まず,これまでに開発してあった高分子鎖間の相関を取り入れた動的なネットワーク理論を拡張して,高分子鎖一界面活性剤間及び界面活性剤間の相関も取り入れた理論を構築した.その際,会合高分子と界面活性剤の疎水基間の協同性の強さを表すパラメータχを導入した.この理論に基づいて複素弾性率を計算した.複素弾性率から得られる緩和時間及びゼロずり粘度の界面活性剤濃度依存性は,実験事実と同様にピークが現れることが示された.さらに,χの値が小さい(異種疎水基間が相対的に結合しやすい)ほど高いピークが現れることが分かった.このことから,界面活性剤混入に伴う混合ミセルの形成およびその安定化が,これらの量の一次的な増加をもたらしていることが分かる.なお,ゼロずり粘度の増加は,会合数の分布が有限の幅を持つことにも由来している.界面活性剤濃度が高い領域では,界面活性剤濃度が増すにつれて分岐数の多い架橋点が崩壊して(会合数が有限の幅を持つことに由来する),ダングリングエンドや分岐数2の架橋点の増加が促進されるため,緩和時間及び粘度は減少する.分岐数2の架橋点の存在は,多数の鎖からなる"スーパーブリッジ"の存在を示唆する.
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