2008 Fiscal Year Annual Research Report
中期鮮新世温暖期におけるエルニーニョ現象の挙動の解明
Project/Area Number |
19740316
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邊 剛 Hokkaido University, 大学院・理学研究院, 講師 (80396283)
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Keywords | 造礁性サンゴ骨格 / エルニーニョ現象 / 中期鮮新世 / 酸素同位体比 |
Research Abstract |
中期鮮新世(5-3Ma)に、地球の気候システムがどのような応答をするのかを検討するために様々な海域における古海洋学的な研究が盛んに行われているが、地球の気候システムの駆動的な役割を果たす熱帯域の大気海洋相互システムがこの温暖期にどのようであったかは不明な点が多く、特に、エルニーニョ現象などの現在問題となっている気象現象がどうであったかについてはほとんど解明されていない。熱帯・亜熱帯のサンゴ礁に広く生息している造礁性サンゴの骨格には、数週間の分解能で数百年間に渡る連続した大気海洋環境の変動が記録されている。本研究では2003年から2006年に渡ってフィリピンルソン島における地質調査により、相次いで非常に保存の良い中期鮮新世の化石サンゴ (3.5-3.8M) の大型群体を発見した。シンクロトロンXRD分析、電子顕微鏡観察から続成作用の受けていない2つの大型サンゴ群体試料を選定し、それらの年輪に沿った高解像度の酸素同位体比解析から中期鮮新世温暖期におけるエルニーニョ現象の変動の復元を試みた。サンゴ骨格の酸素同位体比は水温と海水の酸素同位体比 (塩分の変動) の両方に影響される。エルニーニョの時期には、西太平洋暖水塊が東方に移動することにより、水温が低下し降水量も小さくなる。一方、ラニーニャの時期には暖水塊が存在するために、水温は常に高く、降水は量、変動ともに大きくなる。このようなエルニーニョ現象時における水温と降水量の挙動はサンゴ骨格の酸素同位体比を両者ともに同じ方向に変化させる。化石サンゴを採取したフィリピンはエルニーニョの発生時に降水と水温の異常が顕著に認められる地域であり、エルニーニョ現象に伴う大気海洋変動を検出するのに適している。本研究で測定された2つの大型サンゴ群体の酸素同位体比分析の結果、エルニーニョ現象に起因すると考えられる数年間変動が検出され、周期解析のスペクトルの形状も現在のエルニーニョ現象のものと近かった。これは中期鮮新世温暖期において現在の海洋と同様に西太平洋暖水塊の東西振動に伴うエルニーニョ現象が発生していたことを示す初めての証拠である。
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Research Products
(1 results)