2009 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の性的二形の進化に雄性ホルモンの免疫抑制効果を通じた性淘汰が果たす役割の解明
Project/Area Number |
19770015
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 Nagano University, 環境ツーリズム学部, 准教授 (90422922)
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Keywords | 生態学 / 性淘汰 / ハンディキャップ原理 / 免疫能 / 雄性ホルモン |
Research Abstract |
免疫適格ハンディキャップ仮説は、雄性ホルモンの免疫抑制効果とハンディキャップ原理を組み合わせたユニークな性的二形の進化モデルである。本仮説が検証された分類群は鳥類に偏っており、魚類の研究例はほとんど無い。前年度までの調査より、当初研究材料の候補に挙げた3魚種の内、個体収集の容易さや飼育実験の簡便さなどからオイカワが本仮説の検証に最も適することが明らかとなった。そこで平成21年度は、調査対象種をオイカワに絞り、雄の二次性徴形質の発現程度と雄性ホルモンとの関連、雌の配偶者選択性、雄の免疫能と雄性ホルモンとの関連について調査し、本仮説の妥当性について検討した。野外の雄の二次性徴形質の発現程度と血中テストステロン(T)濃度及び11-ケトテストステロン(KT)濃度との関連をみたところ、T濃度と頭部追星数及び婚姻色面積との間に、そしてKT濃度と婚姻色面積及び婚姻色彩度との間に正の相関関係がみられた。この結果は、雄の二次性徴形質の一部は雄性ホルモンによって発現がコントロールされることを示唆する。また水槽内における二者択一実験において、雌は婚姻色面積の大きい雄を番い相手として好んだことから、雄の婚姻色は雌の配偶者選択を通じた性淘汰によって進化したことが示唆された。さらに雄へのKT投与実験の結果、KT投与群に比べてKT非投与群の腎臓中リゾチウム(溶菌性を持っ免疫能の指標)濃度が有意に低かったことから、KTは雄の免疫能を低下させる働きを持つことが示唆された。以上より、オイカワでは本仮説を構築する3つの仮定(1)雌は顕著な二次性徴形質を持つ雄を好む、2)雌の配偶者選択に関わる雄の二次性徴形質の発現は雄性ホルモンに制御される、3)雄性ホルモンは免疫機能を抑制する)が全て成立することが明らかとなった。本研究の成果から、魚類における性的二形の進化モデルとして、本仮説が有効である可能性が示唆される。
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