2008 Fiscal Year Annual Research Report
ヴェネディクト・エロフェーエフの創作と後期ソヴィエトの文化
Project/Area Number |
19820034
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
神岡 理恵子 Waseda University, 文学学術院, 助手 (10454000)
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Keywords | ロシア東欧文学 / 文学論 / 文化・社会意識 / 比較文学 / 芸術諸学 |
Research Abstract |
本年度は、ヴェネディクト・エロフェーエフの創作時期(1950年代末から1990年)のなかでも、とくに1950年代末から1960年代に関する作品研究を行なった。従来ほとんど扱われてこなかったが、作家の創作全体を考える上では非常に重要と思われる散文『悦ばしき知らせ(福音)』(1962)を分析し、論文にまとめた(『ロシア語ロシア文学研究』第41号へ投稿済、現在査読中)。この初期作品で行われているのは聖書、ニーチェ『ツァラトゥストラ』、アナトール・フランス『天使の反逆』といった作品のパスティーシュであり、のちの代表作『モスクワーペトゥシキ』(1970)以降で中心的な位置を占めていくパロディとはテクスト引用の趣向が異なる点を論じた。また作家の学生時代や故郷が舞台となっている第一作『精神異常者の手記』(1957-59)の研究を進める傍ら、作家の故郷にあるエロフェーエフ博物館(ロシア、ムルマンスク州キーロフスク市)を調査訪問し、アーカイヴ閲覧と資料収集、館長への聞き取り調査を実施できた点は大きな収穫であった。北極圏という地理を実際に体感したことで、作品解釈への効果も得られた。このほか、エロフェーエフとも交流があり、1960年代半ばの地下ソヴィエトで活動した「スモーグ」という文芸サークルに関しても論文にまとめた(「遅れてきた「雪どけ」詩人たち-非公式文芸サークル《CMO「(スモーグ)》の活動をめぐって」早稲田大学大学院文学研究科紀要)。これはグループの活動を「雪どけ」という当時の社会・文化を背景に考察し、地下出版や公式/非公式文学、反体制/人権護運動などの問題にも触れながらロシア文学史に位置付ける試みであり、後期ソヴィエトの文学/文化を世界の20世紀文学/文化の流れに位置づけるという、今後の研究につながる見通しが得られたと思われる。
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