2008 Fiscal Year Annual Research Report
言語、文体面から見たジェイムズ・ジョイス文学の「発展」に関する研究
Project/Area Number |
19820050
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Research Institution | Hiroshima University of Economics |
Principal Investigator |
合田 典世 Hiroshima University of Economics, 経済学部, 講師 (90454868)
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド文学 / 文体論 |
Research Abstract |
20年度の研究内容は、主に次の二つである。一つには、19年度に行った『ユリシーズ』の文体の問題に関する研究成果を海外学会で口頭発表し、国内学会誌に掲載した。もう一つは、件の研究成果をジョイスの他の主要作品(『ダブリナーズ』『若き芸術家の肖像』『フィネガンズ・ウェイク』)の言語・文体特徴と照合することで、改めて『ユリシーズ』のジョイス文学における位置づけを検討し、ジョイス文学の軌跡を言語・文体面から捉えなおすという、当研究計画において総仕上げに当たる作業である。まず、前者においては、世界的ジョイス研究機関の中枢の一つであるチューリヒ・ジェイムズ・ジョイス・ファウンデーションの国際ワークショップで、ジョイス/『ユリシーズ』のcurvilinearityに関して口頭発表を行い、世界の著名なジョイス学者らから貴重なフィードバックを得られた。この成果として、2つの国内学会誌に論文を投稿のうえ、採用されるに至った。後者の研究においては、ジョイス文学全体に通底し、『ユリシーズ』において結節点を形成する重要な特徴を示すキーワードとして“unsatisfactory equation"というフレーズに着目した。ジョイス的「不均衡」は様々なレベルで観察されるが、特に、印刷された言葉とそれが指し示す対象との関係、フィクションと歴史との関係、記憶と事実との関係、時の不可逆性と過去の回想との関係において端的に現れると言える。さらには、この特徴によって、現在のジョイス研究を二分する文字パズルとしての読み方とリアリズムの論理での読み方との対立関係が生まれうることも説明可能となる。見落とされがちな細部から、作品全体、ジョイス文学の軌跡、ジョイス学界の流れまで、ミクロからマクロヘ、マクロからミクロヘと柔軟自在に動く視点を提供し、批評的クリーシェを脱する一助として当該研究が意義をもつと思われる。
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