2008 Fiscal Year Annual Research Report
特別予防的期待可能性理論の研究-リスト・シュミットの責任論を素材として-
Project/Area Number |
19830070
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
小坂 亮 Saga University, 経済学部, 講師 (20434227)
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Keywords | 刑事法学 / 刑法 / 刑法学説史 |
Research Abstract |
少年犯罪・累犯・触法責任無能力者処遇は現代刑法学に課せられた重大な課題となっており、本研究はそれへの応答として、特別予防論に内在する新たな可能性を問うものである。しかし、今日の刑法学ではどの理論体系にとっても当然の共通前提となっている要素である期待可能性概念とそれを基礎に置く規範的責任論は、古典学派理論の一つとして誕生したものであり、また、これまで、近代学派理論(特別予防論)に取り入れられてはきたものの、その論理的・体系的関係性については議論が十分にはまとまっていない状況にある。 よって、前年度に引き続き、リストの刑法教科書の改版を行って規範的責任論を採用したシュミットの責任論と同書の改版前におけるリストの責任論との比較をさらに継続し、学説史上および犯罪論体系上のシュミットの責任論の意義、ならびに、リストの犯罪論体系と規範的責任論との相関関係を検討することによって、規範的責任論の成立の契機となった期待可能性概念が特別予防論を中核とする学説体系上においていかなる機能を有するかを解明しようと試みた。以上の過程において、近代学派学説の中では、期待可能性という概念は責任論のみならず行為論とも関係づけられるという示唆を得たが、しかしそもそも近代学派の特別予防論の学説体系が「行為」主義、罪刑法定主義等とそれほどの理論的近親性を有さないのであれば、期待可能性概念を「行為」論との関係において論ずる意味は著しく減少することとなる。そこで、本研究の一部としてリストによる刑罰の位置づけを明らかにする必要性に対応するために、ドイツにおける最新のリスト研究の成果を参照しつつリストのマールブルク綱領の意義を検討したが、その結果、刑罰論においては刑罰本質論と刑罰目的論という基軸に着目することが有益であることを見出し、刑罰本質論上の応報刑論と組み合わされた刑罰目的論上の特別予防論という理論約枠組みを提示した(論文と学会報告の形態で公表)。
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