2019 Fiscal Year Annual Research Report
中島敦を中心とする大日本帝国期日本文学の実証的、理論的研究
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19F19783
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
星埜 守之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10238743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SENICA KLEMEN 東京大学, 総合文化研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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Keywords | 中島敦 / 日本近代文学 / コロニアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
大日本帝国期を代表する作家と目される中島敦の作品とその背景をなす時代精神、とくに彼のミクロネシアを舞台とした短篇(「南島譚」、「環礁」など)を理解するために、二十世紀前半の社会・文化・歴史のコンテクストの研究に力を入れた。そのために日本近代史、とくに大日本帝国期に関する論文や書籍の研究に努め、研究の枠組みを確立するために、ポストコロニアル理論に関する基本的文献を読み込み、さらには、こうした文献の日本における受容や、いわゆるカルチュラルスタディーズとの関連などについても視野を広げることができた。また、大阪の国立民族学博物館での関連の展示の調査をおこなった。国立民族学博物館には中島敦の友人である土方久巧に関連する充実したアーカブがあり、展示の一部も土方のライフストーリーに充てられていて、中島の行程の理解に大きく資するものであることが確認できた。11月下旬には神奈川近代文学館における中島生誕百十周年を記念した特別展「中島敦―魅せられた旅人の短い生涯」の視察、調査をおこない、中島の手稿に親しく触れるとともに、中島の晩年についての知見を補うことができたほか、日本における近年の中島研究の動向について理解を深めることができた。2019年度は研究期間が5か月間と比較的短く、主に基礎的な調査に充てたこともあって、業績を活字化するには至っていないが、基本的な知見の蓄積という意味では十分な収穫があったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
半年間を基礎的な文献調査に充てることができた他、国立民族学博物館、神奈川近代文学館における調査もおこなうなど、中島敦と同時代の日本近代文学の理解をおおむね順調に深めることができた。ただ、新型コロナウィルスによる感染症の拡大により、2020年3月に参加を予定していた研究会が中止になる等、予期しない状況により研究に制約が生じたこともあり、研究の進捗に多少の遅れが生じたことは否めない。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に引き続き、中島敦に関する一次文献、二次文献の研究を深化させ、東京内外の文学館における調査も続行する予定である。年度の後半に感染症にかかる状況が好転した場合は、中島の短篇小説の舞台となったミクロネシア(パラオ)、ないしは中島が十代の頃に過ごした韓国の現地調査をおこなう。また、いわゆる「南洋」に関する資料が展示されている国内の博物館・資料館等の調査をおこない、日本による統治そのものについて、また、現代におけるその表象の在り方についての理解を深める。また、2020年3月に設定されていたが感染症問題で中止されていた研究会が再開されれば参加する予定である。
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