2019 Fiscal Year Annual Research Report
An Interdisciplinary and Comparative Approach to the Study of the Historicity of Disability: Reflections on Japan from a Comparative Historical Perspective
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19H00540
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸本 由美子 金沢大学, 法学系, 准教授 (60735439)
東 昇 京都府立大学, 文学部, 准教授 (00416562)
小林 丈広 同志社大学, 文学部, 教授 (60467397)
平田 勝政 長崎ウエスレヤン大学, 現代社会学部, 教授 (10218779)
細井 浩志 活水女子大学, 国際文化学部, 教授 (30263990)
藤本 誠 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (60779669)
山本 聡美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00366999)
小山 聡子 二松學舍大學, 文学部, 教授 (80377738)
吉田 洋一 久留米大学, 文学部, 教授 (90441716)
福田 安典 日本女子大学, 文学部, 教授 (40243141)
山田 嚴子 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (20344583)
鈴木 則子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (20335475)
有坂 道子 京都橘大学, 文学部, 教授 (30303796)
大島 明秀 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (50508786)
山下 麻衣 同志社大学, 商学部, 准教授 (90387994)
瀧澤 利行 茨城大学, 教育学部, 教授 (80222090)
中村 治 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (10189029)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 障害史研究 / 病因 / データ収集 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、これまでの成果と今後の方向性を確認する研究集会を開いた(2019年7月6~7日)。プロジェクトが、政治社会、文化宗教、生命医学など、様々な方法論や資料を対象に仕事をするメンバーから構成されており、障害や病について自身の分野での成果状況を出し合い議論し、あわせ今後のビジョンについて、共通理解を得る目的で、分担研究者・研究協力者のほぼ全員が参加した。報告内容は『障害史研究』1号に掲載。 第二に、資料(文献や絵画など多様な史料)データ情報の収集とデータベース化である。本プロジェクトでは障害を病との関連性に留意しつつ広範な状況のなかで捉えるのを目指すが、メンバーそれぞれの方法論で、多面的な情報収集を行っている。進行中の作業の一端は、古代・中世の疾病観、病因論に関わる文献リスト作成、『沙石集』などからの障害表現を含む古代中世仏教説話研究に関わる史料情報収集、近世の随筆、法令(町触)、儒学書などからのデータ収集である。このうち、随筆データについては、江戸幕府の幕臣が記した「耳嚢」からの障害関係記事の抽出と評価コメント記事を「障害関連のデータ集〔1〕」として上記誌1号に掲載。 第三に、研究分担者それぞれのアプローチ手法に基づく資料調査、研究である。進行中の作業の一端は、「物狂」や「神経病」の歴史の追跡(著作化の予定)、幕末熊本藩領の医師・城鞠洲の医学・診療日記「鞠洲医事文稿」写本調査(翻刻予定)、宮古島・沖縄における近代の精神障害者・ハンセン病者などの処遇について継続調査、などである。なお関連成果が論文・著作として刊行され、とりわけ中世仏教絵画研究での病者・障害者の認識イメージ析出は貴重である。これら各人の活動概要を上記誌1号に掲載し、学際融合研究を促し新たな「障害史学」を生み出す実践の場とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
COVID-19感染の影響で、予定の科研研究会や調査の実施が複数出来なかったが、以下のような理由で、予想以上の進捗状況と自己評価する。 第一に、『障害史研究』の第1年度からの発行である。とりわけ、人文科学(とくに歴史学)において不十分な障害対象の研究に関する研究倫理の構築を企図して「編集方針」を策定したことをあげたい。この策定過程を経たことは、人文科学として障害を正面から取り上げて研究する環境が整えられる大きな契機となる、という自負を持つ。 第二に、このようななか障害研究の新たな取り組みが試みられたことである。上記誌1号には、日本古典文学研究の立場からの障害史研究を提言する論考を掲載した。また、障害を広い地域文化圏のなかの健康(養生)思想から捉える論考、障害研究に資する新たな史料分析の方法論に関する論考、さらには、比較史的観点を具体化するため、アメリカの代表的な著作のレビューなども掲載した。これらの仕事が複合しながら、障害史研究の新段階を示唆するものと考える。 第三に、通時的な障害理解の可能性が生まれてきたことである。例えば、古代史料『東大寺諷誦文稿』の検討を通じ、古代日本の地域社会の法会の場において、身体的な疾患を伴う病者(障害者)が仏教的に救済される存在とする言説が語られていたという見通し、あるいは、優生思想と関連し、近世と近現代を一貫する分析可能なキーワードとして、近代ファシズム期に顕著な「血」の浄化思想(祖国・民族の「血」の浄化)との歴史的関係性の示唆、現代における再犯防止政策を近世の困窮者扶助・災害被災者への支援等の救恤問題とリンクさせ考察する視角、などである。 以上、障害史研究の倫理面での担保と、新たな方法論、認識の広がりは、本プロジェクトの今後に有益である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、様々な分野の方法論、仕事を重視する立場を継続する。他方、政治社会、文化宗教、生命医学などの組織化も可能であり、とくに障害に関するデータ収集やそれに基づく研究などの基礎作業の分会として、その機能アップと活動の活性化も図る必要がある。それは、学際融合の「障害史学」構築の礎となるとの立場も重視し、共同研究を進める。第二に、前項で記した新たな取り組みの充実で、とくに前近代における障害認識に関わるデータ収集を進める。ひとつは、史料の新たな見方で、例えば、古典文学や随筆、また絵画など図像資料などの障害認識、表現の析出、地域役人などが記す地方史料の時代性を考慮した障害者の実態分析、養生書・医学書に記載される病因論をめぐる障害認識の探索など、障害概念が成立していないと見なされる前近代における作業の進展を期す。 第三に、比較史、さらに関係史の観点を深める。養生論の東アジア的な考察は、障害認識を、広域史のなかでみる可能性を示唆する。例えば、『日本霊異記』などの障害表現に影響を与えた中国仏教説話の構造と表現の分析を進め、中国文献からの影響関係と古代日本への障害表現の受容についての考究、などが想定される。それは、欧米文献からの比較の視角と合わせ、「障害史研究」としての日本観察を、複眼的になすことにつながる。第四に、現代的な観点の重視である。とくに日本の医療面で、脊髄損傷者など重度の病症者と生活基盤支援の制度、精神障害者の病床数の多さと医療経営の問題、保健婦駐在制度による障害者の支援サービスへの橋渡し、などの観点が研究活動のなかで、提示されている。COVID-19問題を近代的公衆衛生と関連付けて検討課題とする、という提言も含め、現代的課題を歴史的に検証する意味で、当科研が射程に入れるべき問題群であろう。以上、推進可能な論点を軸に、科研事業を展開させたい。
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Research Products
(42 results)