2021 Fiscal Year Annual Research Report
An Interdisciplinary and Comparative Approach to the Study of the Historicity of Disability: Reflections on Japan from a Comparative Historical Perspective
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19H00540
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 聡美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00366999)
東 昇 京都府立大学, 文学部, 准教授 (00416562)
中村 治 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 客員研究員 (10189029)
平田 勝政 鎮西学院大学, 現代社会学部, 教授 (10218779)
鈴木 則子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (20335475)
山田 嚴子 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (20344583)
細井 浩志 活水女子大学, 国際文化学部, 教授 (30263990)
有坂 道子 京都橘大学, 文学部, 教授 (30303796)
福田 安典 日本女子大学, 文学部, 教授 (40243141)
大島 明秀 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (50508786)
小林 丈広 同志社大学, 文学部, 教授 (60467397)
丸本 由美子 金沢大学, 法学系, 准教授 (60735439)
藤本 誠 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (60779669)
瀧澤 利行 茨城大学, 教育学部, 教授 (80222090)
小山 聡子 二松學舍大學, 文学部, 教授 (80377738)
山下 麻衣 同志社大学, 商学部, 准教授 (90387994)
吉田 洋一 久留米大学, 文学部, 教授 (90441716)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | データ集 / 障害認識 / 病観 / 生瀬克己 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、政治社会、文化宗教、生命科学など多様な分野の研究者が障害をテーマに取り組む共同研究で、研究会、情報収集とそのデータ集化の継続が求められる。概要は以下の通り。 第一に、研究会開催、研究誌『障害史研究』3号の成果である。本年度の研究会(全てオンライン)は、第6回(2021年7月)が山田嚴子「生命の弁別と「障害」の表象」、東昇「生瀬克己『近世障害者関係史料集成』の編纂とデータベース」、第7回(10月)が樋原裕二「近世日本における「偽障害者」」、高野信治「近世日本の社会観と〈障害〉認識 ―石門心学をめぐって―」、第8回(2022年3月)が小山聡子「古代・中世の鬼子と怪異」、瀧澤利行「近代日本における「保養」概念の形成と展開(試論)」という内容である。『障害史研究』(以下、研究誌)3号は、論文1本、研究ノート2本、史料紹介2本、および第5回研究会(2021年3月)の報告内容を研究会サマリーとして掲載した(研究誌はオープンアクセス可能)。 第二に、上記およびメンバーの研究活動成果(研究発表欄、研究誌「活動報告」参照)の主なものを次に要約する。(1)基礎的な情報刊行で、大島明秀『熊本博物館蔵村田三節医書コレクション目録』(2021年8月、大島、総ページ数42頁)は、産婦人科医・村田三節(熊本市)蒐集の古医書145冊を採録した。(2)疫病・病原など病観に関する知見の蓄積で、①瘧病の治療法を検討したうえでの病原観の変化、②疫病をめぐる調伏観の変容、③病を善知識(発心の導き手)と捉える観点に基づく中世絵画の造形語彙など、古代・中世をめぐる文化宗教史研究を行った。(3)近世障害史研究に大きな足跡を残した生瀬克己の仕事の整理と総括的な評価で、研究視角や対象(史料)は、障害者ゆえの強い自意識のためなのか、限定性や偏在性も指摘できるが、障害史研究にとり有益な共有財産であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研の採択時(2019年度)に、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)が発生した。もちろん想定しておらず、その後の調査活動は制約をうけるが、病と人との関係は当科研のテーマの一つであり、学会シンポや講演・講座などで話す機会を持った科研メンバーが多い(研究発表欄、研究誌「活動報告」参照)。いわば当事者性をもってテーマに取り組む機会、と捉え返すこともできる。 その意味で、『障害史研究』3号には、近世日本の障害研究を、自らが障害を持つ当事者として取り組み、障害の歴史研究に大きな足跡を残した、生瀬克己を対象とする論考2編を載せることができた。生瀬の成果を位置づける仕事は、今後、障害史研究に大きな意味を持とう。当事者性という観点では、同号の執筆者は、自身が障害者、障害施設に関わりある者、家族が障害者、そのような立場にある者が占めるのも、本科研研究には意義深いと考えられる。 Covid-19のような感染症は歴史的には繰り返し発生したが、それが社会に及ぼす影響に関する成果も、幕末期のコレラ流行をめぐる〈疫病経験〉として提示、疫病下における女性独自の生活の困難について論じた報告もなされ、歴史から現代の状況をみるうえで貴重だ。また、博物館(小川原湖民俗博物館)を創設し、恐山イタコの観光資源化に関わり、移築民家にイタコを招き、オシラアソバセを撮影するなど、先駆的な展示方法を行った人物(杉本行雄)による映像資料の分析も、障害史をめぐる当事者性を析出する。 本研究は、Covid-19の影響による研究活動の制約をうけてきたのは事実だが、指摘したような病や障害の歴史をめぐる当事者性、またその相対化をめぐる論点などを提示できた点は、本科研メンバーの成果の特徴として評価でき、各種のデータ(武家日記史料、孝子褒賞史料、障害者基本計画史料など)収集作業とともに、今後の活動へ有機的に繋がるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の成果を踏まえた方向性について、以下に数点あげる。 第一に、前近代における史資料の希少性をカバーするための文化的表象をめぐる解析の方向性である。本年度の成果に中世(室町期)の狂言台本や近世道話にみる障害の題材化や比喩化の試みがあるが、かかる文化的表象の検証はさらに進める必要があろう。そのようななか、古代日本の仏教説話集等の疾病表現・障害表現に影響を与えたと考えられる中国の仏教説話集等が、どのような形で古代日本に将来され、いかに認識されたかという史的背景などの分析の提案は、本研究に有益だろう。 第二に、心身観の解析とその変容をめぐる考察である。「物事(身体を含む)の欠損が、却って仏教的な発心への導きとなる」というテーマに基づく記紀神話、九相図や「華厳宗祖師絵伝」、また明恵『夢記』に見られる、男女の愛執を梃子とした発心のメカニズムについて論究した成果、あるいは保養をめぐり、養い育てる養生といった生成論的概念から現代的な解釈としての慰安や積極的休養を意味する概念への転成の過程において、病や障害の療養と生活への復帰という生産的身体への指向性が見え始める歴史過程の想定と身体の私事性から社会性への転轍という見方などの提示は、心身観の歴史的ないし社会的な検証の方向性と障害史研究との繋がりを示す。 第三に、近代における看護の観点の重視である。精神病患者の家族的介護で有名な京都・岩倉でのそれは、病気そのものの治療というよりは、病気を持ちながらも患者ができるだけ普通の日常生活を送るように介護人が手助けするという患者対応が行われたという。さらに職業としての付添(付添婦)分析の観点から、長期療養者、戦傷病者、結核患者という特徴を併せもった個人が誰によってどのようにケアされてきたのかという指摘も、障害史研究において、看護をめぐる検討が目指すべき方向性であるのを物語る。
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Remarks |
瀧澤利行「養生・公衆衛生」吉田洋一「福岡県下の洋学」(洋学史学会監修『洋学史研究事典』思文閣出版、2021年)、山下麻衣「看護と保健」(社会経済史学会編『社会経済史学事典』丸善出版、同年) 吉田洋一「久留米藩の学問と文教」(『ふるさと文化誌』(第10号)久留米まち物語』2022年)
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Research Products
(35 results)