2019 Fiscal Year Annual Research Report
Third Excavation-Construction of future archeological material sciences pioneered by man-made fossils in pottery
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19H00541
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小畑 弘己 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (80274679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 啓 九州歴史資料館, 学芸調査室, 研究員(移行) (20638457)
中沢 道彦 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (40626032)
櫛原 功一 帝京大学, 付置研究所, 講師 (50642526)
佐々木 由香 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (70642057)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 土器圧痕 / X線機器 / 家屋害虫 / 栽培植物 / 多量種実・昆虫混入土器 / 大陸系穀物 / 土器作り |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度実施した圧痕調査は、中部北陸地方では、縄文時代遺跡、長野県保地遺跡・新潟県大塚遺跡の2遺跡、関東地方では、神奈川県勝坂遺跡・千葉県取掛西遺跡など5箇所ほどの遺跡資料である。また、九州地方では、宮崎県・熊本県を中心とした縄文時代後晩期遺跡の調査を13箇所ほど実施した。このうち、宮崎県役所田遺跡・千葉県取掛西遺跡など数遺跡において、軟X線装置・X線CTスキャナーによる潜在圧痕の調査を実施した。役所田遺跡からは縄文時代後期のコクゾウムシを多量に含む土器を検出し、その内容については英国雑誌に投稿中である。また、関東地方の縄文時代遺跡で6例ほどの多量種実混入土器候補を検出し、現在分析中である。時期は異なるが、宮古島グスク時代のミヌズマ遺跡において穀物圧痕をもつ資料を軟X線による調査によって潜在穀物圧痕を検出し、グスク期の穀物混入土器の事例を追加した。また、初期調査から軟X線装置を使用した調査は福岡市大原遺跡の土器で実施した。潜在圧痕の再撮影を残している。残念ながら北海道南部における土器圧痕調査は実施できなかった。 本年度の成果は、①多数の遺跡から栽培植物および貯穀害虫の圧痕を得ることができた、②そのうち、多量に種実や昆虫を混入したと思われる多量種実・昆虫混入土器を多数検出できた点である。 前科研課題からの継続的な研究である圧痕成因の民族学的調査である、タイ・ラオスの土器作り村での調査成果を論文として公開した。その成果を受け、帝京大学文化財研究所において、一般公開のシンポジウムを開催し、これまでの研究成果を公表した(『土器作りから土器圧痕を考える』,2019年6月2日)。また、レプリカ法を中心とした圧痕調査法のこれまでの成果と今後のX線機器を使用する調査法の課題についてまとめた単著を刊行した(小畑弘己 2019『縄文時代の植物利用と家屋害虫-圧痕法のイノベーション』,吉川弘文館)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、X線機器を使用し、土器混入種実・昆虫圧痕のすべてを抽出し、以下の考古学的命題を解明しようとするものである。課題1:大陸系穀物(アワ・キビ・イネ・ムギ類)の伝播時期の確定、課題2:土器胎土中の有用植物種実および家屋害虫混入の意味の解明、課題3:集落の大型化と栽培植物・害虫の関連性の有無の検証、問4:クリ栽培と貯蔵堅果類害虫の拡散過程の証明、課題5:地域ごとの栽培植物と栽培化過程の諸相の解明、課題6:タネ・ムシ圧痕の成因解明。 現在までの調査によって、課題2・3に関する情報が多く集まりつつある。また、課題4についても関東地方などでのコクゾウムシの事例の増加によって、検証が可能となりつつある。課題5に関しても、マメ類を中心として検出事例が増えており、九州地方と中部・関東地方との比較が可能となっている。これらは今後とも、継続的に資料の充実を図りたい。また、課題6に関しても、論文にもまとめたように、土器作りの場の環境が大きく左右することが民族学的調査によって検証でき、今後は種実や昆虫圧痕のみでない、土器内に入るすべてのモノの情報が必要となることが明らかになりつつある。 本年度の期間中に十分に検討できなかったのは、課題1に関する研究である。単に時間的な理由であるが、来年度以降、重点的に実施したい。
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Strategy for Future Research Activity |
大陸系穀物の流入時期の確定には、現在調査中の福岡県江辻遺跡や鹿児島県小迫遺跡などの資料の精密な分析と年代測定が必要である。小迫遺跡などでは充分なX線機器による潜在圧痕の調査を実施していないため、今後の課題としたい。 その他の課題にも共通する解明の糸口はやはり、多量種実・昆虫混入土器の意味の解明である。昨年度は軟X線装置および簡易型のX線CTスキャナーにより、コクゾウムシやエゴマなどを中心として多数の潜在圧痕を検出した。これは本研究法の有効性を示すもので、今後とも継続的に同手法によりできるだけ多くの圧痕調査を行う必要性を証明している。栽培植物や家屋害虫の圧痕を多量に検出できるのは、やはり遺跡の中でも大型集落・長期継続型集落と評される遺跡が多い。この点は、分担者の中沢が進めるように他の多方面の考古学的資料との比較検討が必要であり、それらによって検証可能であると思われる。今後進めていきたい。 ただし、大陸系穀物の場合、混和材としての意図的混入も視野に入れる必要があり、とくにイネ・雑穀圧痕などは、穀物の部位と量の検証が今後必要となってくる。また、表出圧痕を目視できる個別土器ではなく、多量の土器を悉皆的に調査し、その内容物を検討する必要がある。また、これまで検出した多量種実・昆虫圧痕混入土器の例も表出圧痕調査によって偶然に検出したものがほとんどである。よって、今後は、初動調査の段階からX線機器による圧痕調査の事例を増やしていきたい。
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Research Products
(29 results)