2020 Fiscal Year Annual Research Report
A research project to establish a research method for archaeology and ancient history based on collaboration with astronomy
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19H00544
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
北條 芳隆 東海大学, 文学部, 教授 (10243693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関口 和寛 国立天文台, 研究力強化戦略室, 教授 (20280563)
吉田 二美 産業医科大学, 医学部, 特任助教 (20399306)
細井 浩志 活水女子大学, 国際文化学部, 教授 (30263990)
瀬川 拓郎 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (30829099)
後藤 明 南山大学, 人文学部, 教授 (40205589)
辻田 淳一郎 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (50372751)
高田 裕行 国立天文台, 天文情報センター, 専門研究職員 (50465928)
石村 智 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 室長 (60435906)
田中 禎昭 専修大学, 文学部, 教授 (60751659)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 考古天文学 / 過去の天体運行 / 天文民俗 / 星辰信仰 / Arc astro-VR / 天文古記録 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度から2021年度はコロナ禍の影響を受けて、ハワイや南太平洋地域はもとより日本列島内についても、考古天文学に関連する可能性の指摘される遺跡の現地調査が実施できない状況であった。一方、文献史学班で着手した星辰信仰に関わる古記録データベースの作成は順調に進められた。また天文学班はアイヌの星座に関するデータベース化を進めることとし、ほぼ唯一の研究書である末岡外美夫氏の著作を基礎に作業を開始した。併せて研究協力者に依頼し、2021年度には日本列島内で執り行われている七夕祭り(富山県、秋田県)や月見の風習(西日本と東日本各地)、沖縄地域に残る星座名の聞き取り調査を実施した。 一方、考古学・人類学班では既存の研究蓄積の点検を実施すると共に、開発中の天体運行シミュレーションArc Astro-VRに実際の遺跡データを組み込み可視化する作業を優先させることとした。具体的には佐賀県吉野ヶ里遺跡に照準を絞り、2020年度の繰り越し予算を宛てることとし、現地にてドローンとLIDAR測量を実施した。背景となった研究成果は、本遺跡北内郭の軸線が3世紀代の「高い月」の期間における冬至付近の満月の出に沿うとの新知見であり、弥生時代における月信仰の重要性が浮上したためである。この新知見は本システムでも正確に再現された。この結果を受けて、佐賀県教育委員会と吉野ヶ里歴史公園の協力と支援を仰ぎ、本シミュレーションを利用した考古天文学のデモ映像として「卑弥呼の見た星空」と題する8分間の映像を作成した。 2020年度に実施できなかった第4回考古天文学会議については、その成果報告を兼ねて吉野ヶ里歴史公園を会場に2021年12月には開催でき、先の映像やArc Astro-VRの実演、星辰信仰に関する本科研費研究の新たな成果を一般に向けて公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画である南太平洋島嶼部やハワイ諸島、および沖縄地域における考古天文学的な事象に関わる遺跡や遺構の現地調査は、2021年度末をもっても相変わらず実現していない。ただし上述のとおり、文献史学班でのデータベース作成は着実に進展しているほか、アイヌの星座データベースを本州・四国・九州における既存の天文民俗学的な知見に重ねて比較点検することが可能な研究環境の整備に向けて具体的な進展があった。 さらに天体運行シミュレーションArc Astro-VRの有効性は吉野ヶ里遺跡を具体例として証明されたため、本科研費研究は新たな展開へと向かいつつある。本システムを吉野ヶ里遺跡の他の地点の諸遺構の分析を始め、世界各地の祭儀関連遺跡の分析に応用する段階に到達した。本システムは2022年度夏までには国立天文台から先のデモ映像や日本語と英語のマニュアルを添えて公開される予定である。 日本の縄文・弥生文化における月信仰の重要性が浮上したことにより、文献史学班や天文学班にも月の問題は再度照準を合わせるべき新たな研究テーマとして再定位されることになった。七夕祭りやお月見の風習についても、従前までの天文民俗学に限定した問題としてではなく、先史時代にまで視野を広げた再定位を目論むこととなった。 したがって、各地の遺跡の現地調査には大幅な制約をうけた反面、研究成果を学界に向けて公表するとともに、考古天文学の有効性を広く社会に向けて発信することには成功したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
各地の現地調査の実施には依然として大きな障壁があり、日本列島内については今後確実に問題が軽減されるものと予想される。しかし南太平洋島嶼部やハワイ諸島などについては、現時点において実現できる目途は立っていない。沖縄地域など現地調査が可能になるところから、再開したいと考えている。 上述のとおり、本科研費研究において今後重点をおくべきテーマのひとつに月をめぐる問題が浮上した。そのため、考古学・人類学班では調査の対象を古代都城や中世城郭および観月の風を促進したとされる禅宗関連寺院の庭園遺構にたいする考古学的検討の必要性が自覚された。2021年度末にはこの方向に向けた準備を進めており、新たな課題が絞り込まれつつある。さらに能の芸能は月と死生観がテーマであり、文献史学班では能と能舞台の史学的把握をも研究テーマに位置づけている。現在作成中のデータベースを用いた点検作業が可能な環境を整えることを急ぎたい。 過去の天体運行再現シミュレーションArc Astro-VRの有効性については、吉野ヶ里遺跡 に限定せず、汎世界的に、かつ通時的に適用可能なシステムであることをさらにアピールする必要がある。そのためにも具体的な祭祀関連遺跡の事例を積極的に組み込むと共に広く社会に公開する必要がある。データとして組み込むべき遺跡は琉球列島を含む日本列島各地をはじめ南太平洋島嶼部にも所在しており、現地観測と測量が可能なところから実現させたいと考えている。
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Research Products
(13 results)