2020 Fiscal Year Annual Research Report
Large scale mapping of marine pollution risk using seabirds as a standardized sampling device
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19H01157
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
綿貫 豊 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40192819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
依田 憲 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10378606)
石塚 真由美 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (50332474)
力石 嘉人 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50455490)
高田 秀重 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70187970)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋汚染 / バイオロギング / 海洋生態系 / 安定同位体比 / 生態影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
外洋の生物学的ホットスポットを抽出し,広範囲の汚染の程度を示すハザードマップと汚染物質の生物への影響の程度を示すストレスマップを作る技術を開発することが狙いである。そのため、バイオロギングで海鳥多数個体を通年追跡し,集中利用場所を求め、追跡した個体の体組織の汚染物質濃度を栄養段階と餌組成により標準化した上で各個体の集中利用場所に対応させ、さらにステロイド類などのストレスマーカー候補との関係を分析し高リスクの場所をマッピングする。昨年度、新潟県粟島において,育雛中のオオミズナギドリ親鳥40個体を巣穴で捕獲し,光強度を連続記録するジオロケーターを装着し,今年度はそのうち28個体を再捕獲・回収した。毎日の緯度・経度を推定したところ、予想通り、各個体は南シナ海、アラフラ海、西部熱帯太平洋のいずれかで12月から2月まで越冬していた。採取した体組織の化学分析の結果、尾脂腺分泌油脂成分(ワックス)と皮下脂肪における残留性有機汚染物質(PCBs, DDTs, HCHs)濃度は、いずれも南シナ海越冬個体で高い傾向が認められた。また、尾羽の窒素安定同位体比は南シナ海越冬個体で若干高く、アラフラ海越冬個体で若干低い傾向があった。予想通り、水銀濃度は南シナ海越冬個体の尾羽で高い傾向があったが、過去の値に比べると西部熱帯太平洋越冬個体でやや高い傾向があった。一部についてはアミノ酸別安定同位体比を実施し、不調であった分析機を交換するなどしてホルモン類(コルチコステロンなど)の分析を行なった。また、追加で、繁殖期中の採食場所や行動をGPSロガーなどで追跡し、その結果、日本海と太平洋で採食する個体がおり、それらの血液の水銀濃度と酸化ストレス指標には差がないことがわかった。本年度は抱卵中に繁殖失敗した個体が多く、汚染への曝露と翌年の繁殖成績との関係ははっきりしなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り、ある程度の個体数を再捕獲し、越冬海域を確認したうえで、体組織を採取し、それらの水銀と残留性汚染物質(POPs)濃度を測定することができた。予想通り水銀では南シナ海での汚染暴露が高い傾向がうかがわれ、また新らしい成果としてPOPs濃度も高いことがわかった。長期暴露を反映する尾線ワックスと長期暴露を反映する皮下脂肪で同様の傾向が見られたことは興味深く、新しい問題が与えられた。越冬海域のストレス指標として羽のストレスホルモンの測定値がまだ不安定であるが、他のストレス指標として羽の傷の程度のデータを得ることができた。羽のバルク安定同位体比の測定は順調で、アミノ酸別安定同位体比の測定も本格的に始めることができ、ベースライン決定が期待できる。当該年度においては、繁殖成績がかなり低かったことは予定外だったが、次年度より多数の個体をサンプリングする予定であり、繁殖成績への影響は次年度のデータを持って分析する。加えて、ロガー装着個体以外の個体での様々な組織中の水銀濃度やストレス指標の関係について分析でき、また、繁殖中の利用海域と血中水銀濃度、酸化ストレスの関係についての新知見も得られた。これらを踏まえ、繁殖期に同じ海域を利用する他種との比較という新たな展開を計画している。こうした経緯により概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き越冬海域の汚染度のマッピングと海鳥のストレスとの関連性の解析を継続実施する。サンプル数を増やすことによって、特に、体組織中の汚染物質濃度と尾羽のストレス指標(コルチコステロンと尾羽の傷の程度)との関係や育雛中の繁殖成績との関係に着目した分析を進める計画である。本年度も、新潟県粟島において、抱卵中の親鳥100個体にジオロケーターを装着しているので、次年度は十分な数のサンプルが得られると期待できる。繁殖期における利用場所(北日本周辺海域)での暴露を反映する尾脂腺分泌油脂成分,血液,新しく生え始めた首の羽根、越冬期の集中利用場所(南シナ海、西部太平洋熱帯域、アラフラ海)での暴露を反映する尾羽根・風切羽,皮下脂肪を採取する。羽のアミノ酸別安定同位体比を測定し、各個体の越冬場所のベースラインの値を知った上で、バルク安定同位体比から真の栄養段階を推定し、栄養段階とともに汚染物質が生物増幅される効果を標準化した上で越冬海域汚染度のマップ作成を本格的に行う。尾羽・風切羽根の重金属を測定するとともに、次年度は、皮下脂肪とワックスの従来のレガシーPOPsに加えフッ素系など新規POPsの分析にもチャレンジする。血液中と羽根のストレスホルモン濃度の関係をより多くのサンプルで解析するとともに、羽根中のストレスホルモンの測定技術をさらに洗練させ、汚染物質濃度との関係を解析することによって、汚染物質が生物に与える影響度を示すストレス度のマッピングを試みる。比較のため、同じ海域で採食するウミネコについても、採食場所、血中水銀濃度と酸化ストレスの関係を明らかにしたい。次年度も100個体程度にジオロケーターを装着し、R4年度には、越冬中の暴露をよりよく反映しているサンプルを得るため、繁殖地に戻った直後の春に再捕獲し組織標本を得ることを計画している。
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