2021 Fiscal Year Annual Research Report
福島県の山間村落を対象とした森林除染の必要性と実現可能性に関する検討
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19H01164
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
米田 稔 京都大学, 工学研究科, 教授 (40182852)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬戸口 浩彰 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (70206647)
高橋 知之 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (80314293)
原田 浩二 京都大学, 医学研究科, 准教授 (80452340)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 放射性Cs / 森林除染 / 実現可能性 / 天地返し / 線量削減モデル / 川内村 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに実施した個別訪問による住民アンケート結果について、年齢別、職業別などのより詳細な解析を行い、特に老人の屋外活動量が減少していることなどを明らかにした。また、森林を中心とした生活時間パターンの原発事故に起因する変化の健康リスクを総合的評価するための、放射線被ばくによる寄与分の定量的評価結果が概ね得られた。 点減衰核積分法の計算コードを用いて、森林の地形条件なども考慮して、森林に天地返しを施工した場合の空間線量低減効果を計算する手法を開発した。この手法を実際の川内村の森林に適用した結果、天地返しの深さなどによって、施工範囲の平均値で50%から70%ほどの線量低減効果があることがわかった。ただし、実データとの比較により、より正確な予測のためには、領域内での放射性Cs濃度分布を考慮する必要性も明らかとなった。 様々な健康リスクを考慮して、森林活用健康生活モデルを提案するため、昨年度に継続して、各自治体の国民健康保険特定健康診査データについて、確定したものの収集解析を行った。また、さらに自治体間での差を明確にするため、各自治体での追加調査の内容を検討した。実際の調査はコロナ禍の行動制限のため、次年度に持ち越しとなったが、避難経験の違いなどを、より明確にするための調査項目を整理した。 今年度においても針広混合林の土壌では、Cs137で2,000から19,000 Bq/kgが表層5cmぐらいに集まっていた。キノコや腐生植物、ギンリョウソウなどの植物中や、森林近傍の田畑におけるCs濃度を調査した結果、自然の森の中でもCsの濃淡にかなりのばらつき(まだら模様)があることから、森林土壌のCsは基本的に動きづらいものの、日本特有の降雨(時には台風のような多量の降雨)によって、Csを吸着した細かな土壌粒子が低い場所に移動して、Hotspotを作っている状況が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに実施した個別訪問によるアンケート調査は全村民の20%以上からの回答であり、統計的に解析するための十分なサンプル数が得られていると考えられる。このデータを解析することによって、震災前後での森林の利用時間数や生活時間パターンの変化がほぼ明らかとなった。コロナ禍による移動制限のため、十分な追加データの収集はできていないが、森林内空間線量の変化による健康リスク評価を生活時間パターン毎で実施することは順調に進んでいる。 森林除染した場合の森林内空間線量の変化を点減衰核積分法を用いた数値シミュレーションによって明らかにすることについては、国土数値情報を利用することや、スカイシャインを解析に加えることで、昨年度までよりもより詳細なモデル化が可能となっている。また、これらの解析をマルチコアのパーソナルコンピューターで実施するための、分散化処理プログラムも完成し、実用に耐えるシミュレーションが可能となった。 森林利用に関係した地域住民の健康状態の変化については、解析を行うためのデータの収集はコロナ禍による行動制限のため遅れ気味であるが、健康リスクを総合的に評価するための手法の検討を進めている。また、福島県全体での影響評価を行うための国民健康・栄養調査のミクロデータを厚生労働省から取得し、その分析を開始している。 森林域からの放射性Csの移動データの収集は順調に進んでおり、森林内において天地返しを行った場合の放射性Cs濃度の初期条件および、経年変化を予測するための土壌中Cs移動と植物体への吸収速度データの収集が順調に進んでいる。 これらのことから、コロナ禍による移動制限のため、現地での対人的調査内容において、若干の遅れが出ているが、天地返しの効果を評価するための数値計算のプログラミングとデータ収集が順調に進んでいることから、研究全体として、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに収集したアンケート結果の解析を継続し、川内村村民の標準的な行動様式と、そのばらつきの大きさの属性毎でのモデル化作業を継続する。そして原発事故前後の被ばく線量の変化に基づき、森林利用を中心とした生活時間パターン毎での被ばくリスクを定量的に評価する。また、原発事故前後の住民の健康度の変化を、生活パターンの変化に基づいて解析することで、各属性毎での総合的健康リスクを評価する。 天地返しを主たる除染法として森林除染を実施した場合の、線量削減効果を評価するため、昨年度までに開発した点減衰核積分法による空間線量評価モデルのさらなる精緻化を行う。さらに森林中での天地返しが森林生態系へ及ぼす影響を明らかにするため、森林中でのCsの動態、天地返しからの生態系の復元、天地返しが森林土壌の安定性に及ぼす影響の解析などのデータ収集を行う。Csの動態については、各種植物への移行速度の知見を収集整理する。また天地返しによって土壌表面にある菌類叢が一時的になくなるため、周辺土壌から菌類叢がどの程度の時間で回復してくるかを環境DNAの調査で明らかにする。そしてこれらの結果を空間線量評価モデルに組み込むことで、空間線量の天地返し後の経年変化予測を実施する。 震災にともなう生活習慣の変化の自治体間での差を明確にするため、アンケート調査に含める項目を宮城、岩手での既報の情報をレビューし、質問紙を作成する。この質問紙を用いて、川内村において、避難、および帰村の過程での生活形態、世帯構成などの調査を、新型コロナウイルス感染症の状況を考慮しながら自治体担当者との打合せに基づき実施する。さらに福島県全体での影響を評価するため、昨年度に取得した厚生労働省国民健康・栄養調査のミクロデータを解析する。 今後の川内村の復興計画を考慮しながら、より現実的な森林除染計画の策定を川内村との協議に基づき検討する。
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Research Products
(4 results)