2021 Fiscal Year Annual Research Report
Prospection of the ground under the water of the moat surrounding ancient tumuli
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19H01360
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
高橋 克壽 花園大学, 文学部, 教授 (50226825)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 古墳 / 周濠 / 陸橋 / 渡土手 / 堰状遺構 / 水位調節 / 他界観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、湛水状態にある古墳の周濠の堆積層下の情報を得るためにどのような方法があるか探ることを第一の目標に掲げたものである。それは古墳築造当時の地形の復元とともに、周濠そのものの実態や機能を明らかにするために不可欠な方法の開拓でもある。そのため、過去2ヶ年は都合3基の古墳に対して音波を用いた探査を実施し、改善点はあるものの効果的な機器と手法を選定することができるまでに至った。 上記3古墳がいずれも同一レベルの濠底を有し、浅い水深の周濠をめぐらしていたことが推測できたことを受け、今年度は、傾斜地に営まれた古墳での周濠の様子を考古学的手法で調べることにした。 対象に選んだのは福井県若狭町にある脇袋古墳群の前方後円墳である。そのうち、上ノ塚古墳と糠塚古墳について、周濠部分のレーダー探査とそれを踏まえたトレンチ発掘を実施した。上ノ塚古墳は前方部西側に陸橋状の反応が得られたこと、前方部前端のラインが不明であったことから、その2地点にトレンチを設定した。その結果、前方部西側には陸橋の存在は確認できなかったが、墳丘裾を良好に検出することができた。また、前方部前端についても基底石とともに墳丘前端をつかめたことにより、古墳の正確な平面形が復元できるようになった。また、濠底が同一レベルに造られていたことがわかった。 いっぽう、糠塚古墳ではレーダー探査に基づいて調査区を2ヶ所設定したが、想定していた向きと違う東向きの前方部が確認でき、さらにここでは、濠底のレベルに南北で高低差があることがわかった。 これは、初年度の研究費によるレーダー探査に続いて、21年度に若狭町が実施した西塚古墳の発掘でみつかった渡土手や堰状遺構が、糠塚古墳にも存在していたことを強く示唆するものであった。そして、これらの年代差から、斜面地に周濠をめぐらすための土木施設の発達を読み取ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は第一に湛水状態にある周濠の堆積層下にある墳丘のもともとの形や付属する施設について情報を収集するための研究であり、それについては計3回の探査によって多くの知見と改善点を得た。 しかし、この研究が目指したところは、周濠がいかなるものであり、実際にそこにどれほど水を溜めてあったのか、そして島状遺構などの施設がどのように設けられ、それが何を意味しているかといった考古学的問題を解明することにあった。その点で今年度実施した脇袋古墳群の2古墳の調査成果は、若狭町が事前に実施した西塚古墳の成果を合わせ、大きな知見をもたらした。それにより、斜面地においては同一レベルに濠底をそろえることをやめ、渡土手や堰状遺構を要所に設けて、水面の高さを変えつつ、古墳の全周に水を湛えようとする方向に推移したことが確かめられた。西塚古墳の堰状遺構は、濠底に丸太木材を横たえ、それを粘土で被覆した新発見の遺構である。 そのようにしてまで、古墳の周りに水を溜めたのは、当時の人々の古墳に対する意識を垣間見せるものである。すなわち、他界というものが水に囲まれた正解であるという当時の思いを伝えていると考えられる。 しかし、これらの古墳に畿内中枢の古墳に見られる島状施設や造り出しが存在するのかしないのかについては、探査範囲が限られていたことや解析の不十分さのためもあっていまだわからないままである。西塚古墳では外堤に人物埴輪や動物埴輪が集中的に樹立されていたこともわかっているが、造り出しや島状遺構の有無との関係などはわかっておらず、今後さらなる探査や発掘調査によって確認することが必要である。 さらに、この3基の古墳は互いに周堤を共有するかのように近接しており、最も高い地点の上ノ塚古墳の周濠の余った水が、低い側に位置する西塚古墳や糠塚古墳に給水されていたのではないかという新たな仮説が想定できた。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2ヶ年にわたる湛水状態にある周濠内部の探査は、サブボトムプロファイラーを使用して、できるだけ多くの測線を設けて探査することが肝要であることを明らかにした。しかし、船上からの有人探査には、水深や堆積層の厚さに関係する測定上の問題があるううえ、経費が高いなど実施する上でいまだ改善すべきところも少なくないことがわかった。これらを解決するために、無人の探査機器をリモートで航行させてデータを得るなどの技術的改良をはじめ、まだまだ研究データ量を増やすために方法を開拓していくことが求められるであろう。さらに、地上部分のデータとの結合とその応用など、探査データの活用についても考えていかなければならない。 いっぽう、若狭の脇袋古墳群における首長墓の周濠の変遷過程や水位調節の技術などがどこまで普遍的なものであるのか、すでに発掘調査等がなされた周濠を有する他の古墳のデータを収集して考察する必要がある。本研究で実施した古墳はおおむね5世紀代の古墳であり、調査した地域も畿内中枢域と若狭地方という歴史的環境の異なる特定の場所であるといった資料の片寄りを是正しなければならない。そのために、丹念に地域ごと、時期ごとに周濠や周濠内施設の変遷を明らかにすることが求められる。 なお、周濠内の堆積土自体からも周濠の本来の水位や環境などが復元できるかどうか、データを集め検討する必要もある。発掘調査された若狭の3基はいずれも谷地形にあることから水位が高く、調査例ではピート層や粘土が周濠最下層で確認できた。古墳によってはその後の歳月のなかで土壌が変質することもあるだろうが、現状でどのような堆積土であれば、そこまで滞水環境にあったと言えるのかといったことに対しても既往のデータを収集して考察を深めたい。 同時に、周濠及び周濠内施設の実態から、古墳の存在意義や他界観などに迫ってみたい。
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Research Products
(1 results)