2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Non-Destructive Analytical Methods for Silk and Natural Cellulose Fabric Used in Paintings, and Research on Their Production Techniques and Restoration
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19H01365
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (20311160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安永 拓世 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 主任研究員 (10753642)
菊池 理予 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 主任研究員 (40439162)
高柳 正夫 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50192448)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非破壊分析 / 絹 / 自然布 / FT-IR / 多変量解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究初年度であるため、絹と自然布それぞれについて、まずは双方の基礎データベース作成を目指し、データ収集を中心に研究を遂行した。 絹については、製作年代の明らかな作品についてhiroxデジタルマイクロスコープRH8800を用いて、35倍、50倍、200倍、500倍で複数箇所を撮影し、絹繊維の三次元形状の記録を行った。調査点数は、現在20点以上になり、次年度以降はこの調査を継続するとともに、形状データの統計処理を行う予定である。特に編年を行うにあたりデータの少ない中世の時期を中心に今後の測定を検討する。また、接触角計を購入し、絹の表面の撥水状態と精練との関係性の調査を開始した。この表面状態は精練のみならず、膠とミョウバンで作成されるドウサ液(絵画製作時に必ず下地として使用される)の使用状況でも変化が生じ、絵画表現に大きく影響する。今年度は精練とドウサとの影響の基礎データを取得した。 自然布については、多変量解析の基礎データベースを作成するために、試料の収集を行った。沖縄の調査で製作方法の異なる芭蕉の資料を入手し、群馬県の岩島の大麻(群馬)からも試料の提供を得るなど、今年度は多くの由来の明瞭な自然布材料を収集できた。併せて現場で製作技法の聞き取り調査も行い、資料の物性や由来を明確にした。 また、これらのデータベースを用い、多変量解析を利用した判別フローを作成した。葛と伝世されてきた資料について、このフローを用いて非破壊分析したところ、芭蕉と識別された。これを確定させるために、脱落片のクロスセクションを観察したところ、芭蕉と確定し、判別フローの有効性が示された。 これらの研究成果を近赤外フォーラムでも発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は自然布の多様な資料を入手し、これらをもとに、植物繊維識別のための基礎データを作成した。入手した自然布の基礎資料は製作技法の明確なものに限定することで、精度の高い判別フローを作成した。FT-IRデータの多変量解析プロトコルに「教師つき」の解析方法を導入することでこのフロー作成が可能になり、この手法についての学会発表も行うことができた。 得られた判別フローを用いて葛と伝世されてきた資料を対象に非破壊分析と解析を行ったところ、芭蕉と識別された。この結果を検証するために、同じ資料の脱落片を用いて繊維断面の形状観察を行い判定を行った結果、芭蕉と確定し、判別フローの有効性が示されており、令和3年度の学会でも発表予定である。従来、非破壊では植物繊維の種の識別は不可能であったが、これにより非破壊でも植物種の同定が可能になったと考えられる。 また、絹繊維の断面形状についても年代の明らかな絹について繊維の形状データを収集し、データベースを作成しつつある。さらに、その繊維形状が絵画表現に及ぼす影響を確認するために、絹繊維の表面物性の評価も開始している。精練による表面の撥水性の差異、膠と明礬で作られるドーサの有無などで生じる繊維表面状態の差異が、墨や顔料の滲み・発色に及ぼす影響についての解明を並行して開始した。これらの成果により、絹繊維の差異と絵画表現の関係について包括的解明が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
植物繊維については、現在、麻類と「葛・芭蕉」の識別を行った上で、葛と芭蕉の識別が可能となっているが、麻類の内容については識別がまだ十分でない。これについては、基礎データとなる基準試料の不足の影響も大きく、これらの拡充を目指す。また、太布(楮)や藤布、オヒョウなどについての識別が可能となるようこれらの基礎データとそれを用いた判別フローの作成を目指す。また、昨年度、繊維のクロスセクション観察により最終確定が可能となったことを踏まえると、採取可能な試料を用いて、FT-IRのデータとクロスセクション観察の照合を行い、判別精度を高めていくことも検討する。 絹繊維については、さらに三次元測定のデータ拡充を目指す。編年照合を可能にするデータベースの作成のためには、中世の時期の資料測定が不足しており、次年度以降はこのような資料を中心とした測定を検討する。また、絵画表現とドウサや精練などの関連性についても各種条件で比較試料を作成し、客観的な評価を行い、表現と材料の関連性についての解明を行う。
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