2020 Fiscal Year Annual Research Report
Search for new interaction via neutron-nano-particle scattering
Project/Area Number |
19H01927
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
嶋 達志 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (10222035)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三島 賢二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (20392136)
吉岡 瑞樹 九州大学, 先端素粒子物理研究センター, 准教授 (20401317)
北口 雅暁 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (90397571)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中性子小角散乱 / ナノ粒子 / 重力の逆二乗則 / 余剰次元 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は10~100nmの距離における重力の逆二乗則の破れを探索することを目的としている。実験手法として、ファンデルワールス力による擾乱を受けない中性子と、探索距離と同程度の大きさを持つナノ粒子標的との干渉性散乱を利用する。さらに、核力によるバックグラウンドを抑制するため、符号の異なる散乱長を持つ元素の化合物をナノ粒子標的の材料として用いる。 2020年度はケイ素、ニッケル、銀、亜鉛のナノ粒子を標的として用い、大強度陽子加速器施設(J-PARC)のパルス中性子源にて散乱測定を行った。その結果、それぞれの元素の干渉性散乱長のデータと標的粒子の粒径分布を考慮した理論計算によって再現できることが確認された。 また、符号の異なる散乱長を持つ元素を組み合わせた標的材料の候補としてバナジウム-ニッケル合金に着目し、薄板状の標的を用いて中性子小角散乱測定による性能評価を行った。バナジウムは、単体の物質としてはもっとも小さな核散乱長を持つため純バナジウムでも感度向上が期待されるが、バナジウム-ニッケル合金はさらに散乱長が小さく、核散乱によるバックグラウンドが純バナジウムよりもさらに1/3程度に削減されることがわかった。現在、純バナジウムおよびバナジウム-ニッケル合金を原料として用いたナノ粒子の製法の開発をアイシンナノテクノロジーズ株式会社との共同で進めている。 一方、従来の実験で中性子の散乱角度分布測定の精度を制限していた散乱チェンバー(真空)と中性子検出器(大気中)の間の隔壁の影響を除去するため、真空内で動作可能な中性子検出器の開発を行った。2020年12月に、J-PARCにおいてパルス中性子ビームを用いた動作試験を実施し、実際に真空中で正しく動作することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バナジウム-ニッケル合金の性能試験実験を行い、現時点で考えられる標的材料の候補としてはもっとも有望であることを確かめた。この結果を踏まえて、バナジウム-ニッケル合金を原料としたナノ粒子標的の製作に着手し、アイシンナノテクノロジーズ株式会社との共同でナノ粒子の製造方法の開発をスタートさせた。既に微細粉末化には成功しており、ナノ粒子成分をガス気流によって取り出す際の最適なパラメータの探索を行っている。パラメータが決定されれば、直ちに標的を得ることができ、それを用いて中性子小角散乱の本測定を実施可能である。 また、2019年度の純ニッケルナノ粒子標的の測定に続いて、2020年度には核散乱長がよくわかっているケイ素、銀、亜鉛の単体を材料としたナノ粒子標的の測定を実施し、いずれも干渉性散乱の理論式によって散乱強度分布がうまく説明されることが確認され、これによって本測定用の標的物質を用いた測定に対しても、同様の理論計算を通じた解析の見通しが立った。 これらと並行して、従来の実験で中性子の散乱角度分布測定の精度を制限していた散乱チェンバー(真空)と中性子検出器(大気中)の間の隔壁の影響を除去するため、真空内で動作可能な中性子検出器を製作し、J-PARCにおいてパルス中性子ビームを用いた動作試験を行った結果、実際に真空中で正しく動作することが確認された。これによって、中性子小角散乱の本測定に向けての準備が完了した。 以上の状況から、現在進めているバナジウム-ニッケル合金のナノ粒子化の手法が確立すれば、本研究の最終目標である数十nmの距離での未知相互作用探索の高感度化が十分達成できるものと考えられる。したがって本研究は現時点では順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
アイシン名のテクノロジーズ株式会社との共同でバナジウム-ニッケル合金のナノ粒子化の手法を確立する。これまでに微細粉末化は成功しており、ナノ粒子成分をガス気流に乗せて輸送・取り出すためのパラメータの最適化を行う。2021年度10月までにナノ粒子化技術の開発を完了し、実際に本測定用のナノ粒子標的試料を製造する。 この試料を用いた本測定をJ-PARCにおいて10月~12月の間に実施し、中性子小角散乱データを取得する。この実験では2020年度に開発した新しい位置検出型中性子検出器を導入し、散乱角の測定精度の向上を図る。 中性子小角散乱測定と並行してX線小角散乱測定および走査型電子顕微鏡写真撮影を行い、試料中のナノ粒子の粒径分布を正確に求める。 中性子小角散乱データと、粒径分布の測定値に基づいた散乱強度の理論計算値を比較することによって、未知相互作用の強度に関する上限値または有限値を導き出す。約1週間の中性子小角散乱測定によって、従来よりも1000倍程度の精度向上が見込まれ、重力に関する大きな余剰次元模型等の、標準模型を超える素粒子の理論に対して新しい実験的情報が得られるものと期待される。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Proof-of-principle Experiment for the Study of a New Intermediate-range Interaction Using Coherent Neutron Scattering2021
Author(s)
Masayuki Hiromoto, Taichi Hori, Ryota Kondo, Shuhei Hara, Tatsushi Shima, Rintaro Nakabe, Noriko Oi, Hirohiko M. Shimizu, Katsuya Hirota, Masaaki Kitaguchi, Christopher C. Haddock, William M. Snow, Tamaki Yoshioka, Kenji Mishima, Takashi Ino
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Journal Title
JPS Conference Proceedings
Volume: 33
Pages: 011118
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Presentation] 中性子干渉性散乱による未知短距離力探索実験に向けたナノ粒子標的の開発2021
Author(s)
廣本政之, Christopher C. Haddock, 中部倫太郎, 近藤亮太, 広田克也, 猪野隆, 北口雅暁, 三島賢二, 嶋達志, 清水裕彦, W. Michael Snow, 吉岡瑞樹, 原周平
Organizer
日本物理学会第76回年次大会
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[Presentation] ナノ粒子による中性子小角散乱を用いた未知相互作用探索実験2021
Author(s)
近藤亮太, 廣本政之, 嶋達志, 広田克也, 中部倫太郎, 清水裕彦, 北口雅暁, 猪野隆, 三島賢二, 吉岡瑞樹, Christopher C. Haddock, W. Michael Snow
Organizer
日本物理学会第76回年次大会
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[Presentation] 中性子干渉性散乱を用いる未知の短距離力探索へ向けた実験装置の最適化2021
Author(s)
中部倫太郎, 清水裕彦, 広田克也, 北口雅暁, 近藤亮太, 嶋達志, 原周平, 廣本政之, Christopher C. Haddock, 猪野隆, 三島賢二, W.Michael Snow, 吉岡瑞樹
Organizer
日本物理学会第76回年次大会
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[Presentation] 中性子干渉性散乱による未知短距離力探索実験に向けたナノ粒子標的のデータ解析2020
Author(s)
廣本政之, Christopher C. Haddock, 中部倫太郎, 近藤亮太, 広田克也, 猪野隆, 北口雅暁, 三島賢二, 嶋達志, 清水裕彦, W. Michael Snow, 吉岡瑞樹, 原周平
Organizer
日本物理学会2020年秋季大会
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[Presentation] 周期的ポテンシャルによる中性子散乱を用いた未知相互作用探索計画2020
Author(s)
近藤亮太, 廣本政之, 嶋達志, 広田克也, 中部倫太郎, 清水裕彦, 北口雅暁, 猪野隆, 三島賢二, 吉岡瑞樹, Christopher C. Haddock, W. Michael Snow
Organizer
日本物理学会2020年秋季大会
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[Presentation] 中性子干渉性散乱を用いた未知短距離力探索実験における検出器の性能解析2020
Author(s)
中部倫太郎, 清水裕彦, 広田克也, 北口雅暁, 近藤亮太, 嶋達志, 原周平, 廣本政之, Christopher C. Haddock, 猪野隆, 三島賢二, W.Michael Snow, 吉岡瑞樹
Organizer
日本物理学会2020年秋季大会
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