Outline of Annual Research Achievements |
前年までに引き続き, 報告者らが国際協力で立ち上げたサブミリ波偏波計POL-2で取得したデータを利用して研究を進めた. 本研究の狙いのひとつは, 「直線偏波観測は星間磁場を捉えているのか?」の検証であるが, 多様な環境下での検証を行うため, 輻射場が非常に強いオリオン・ブライトバー周辺の観測を完了した.
2022年度は, おうし座分子雲にある, 小質量分子雲コア L1521 Fの研究が完了した. 偏波観測の結果, 850 μmでトレースされる磁場は, 大局的に南北方向であるが, 450 μmではこれに直交する構造をもつことがわかった. 分子流を含む, 詳細な解析の結果, 観測された磁場構造は1000 AUスケールの擬似円盤(pseudo-disk)に起源すること, この系は既に自己重力によるガスの落下が支配的であることがわかった. さらに研究協力者による, 理論シミュレーションの多数の結果と比較することで, 1000 AUスケールで, 現在観測されている磁場の平均的な向きは, 系が重力収縮を始めるまえに存在した大局磁場に比べ, ほぼ85度も捻られていたと推定された.
国際協力パートナーが進める研究にも, 解析のアイデアを提案するかたちで参画した. 主要なものとして大質量星形成領域Monocerous R2における波長850 μmでの偏波観測の結果がある. この研究からは, (1) 差し渡し約1pcの領域全体は, ハブ・フィラメント構造を示し, 磁場は風車を彷彿させる渦巻き形状であった. (2) 磁場に沿って9本のフィラメントが同定され, それらの多くは磁気的亞臨界にあると推定される. (3) 求められた質量磁束比の不定性を考慮に入れても, 外周部は乱流圧の寄与はあるものの, 主に磁気圧で支えられており, 中心部は重力崩壊していることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R2年度報告書では, 東アジア天文台ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡JCMTに搭載した直線偏波計POL-2を利用して, 大質量星形成領域G31.41+0.31における直線偏波撮像観測を実施し, 得られた解析結果を述べた. ここでは, データ解析の現状を述べる.
POL-2は, 空間的に広がった放射に対して感度がない. このため, イタリア・アルチェトリ天文台の研究協力者R. Cesaroni准教授がハーシェル衛星を用いて取得した, 波長500, 350, 160および70 μmデータを援用して柱密度を推定した. 具体的には, POL-2データと合わせて6バンド分のデータを利用してピクセルごとにスペクトル・エネルギー分布を求め, ダストの色温度と柱密度を求めた. 次に, この空間的に広がった低密度ガスを含む, データを利用して, フィラメントや分子雲コアを先行研究を考慮して同定した. 以上を踏まえ, 2023年5月現在, 個々の構造の力学的安定性における磁場と乱流の寄与を評価している.
一方, 大局的に見た場合, POL-2が明らかにした0.1 pcから1 pcスケールの磁場構造は, サブミリ波干渉計SMAと大型干渉計ALMAで観測したときの1000 AU以下のスケールの磁場構造と形状が酷似していることがわかった. この結果は, 異なる空間スケールであっても(つまり, 物質の集積が進んでも)磁場構造がcoherentかつ相似的に維持されていることを示す. これまで研究されてきた多くの天体では, 階層構造ごとに異なる磁場構造を持つので, 重要な示唆を与えるサンプルとなりそうである. そこで, アルチェトリ天文台の研究協力者M. T. Beltran博士を筆頭著者に速報論文を準備している(2023年5月現在).
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で述べたように, R2年度に取得したデータは研究の方向性がふたつあることを示している. 個々の構造における磁場と乱流の寄与を評価する研究については, 報告者がリーダーとなり力学的安定性の評価を進めている. さまざまなスケールにおける構造比較については, 他の研究グループと連携する必要もあるため, R. Cesaroni准教授が理論研究を含めたコーディネートを担当しており, 速報論文の初稿を2023年初夏に完成すべく, 執筆を進めている.
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