2019 Fiscal Year Annual Research Report
下部地殻-上部マントルにおける蛇紋岩化作用による新有機物圏の形成
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19H01993
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
三瓶 良和 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (00226086)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 一郎 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (30335541)
大平 寛人 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (60273918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | organic carbon / carbonate carbon / n-alkane / 蛇紋岩 / hopane |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は飛騨外縁構造帯の長野県白馬村および三郡帯の中国地方中部地域において地質調査,岩石試料採取,薄片観察,CHNS元素分析(長野52試料・中国地方41試料)およびGC-MS分析(鉱物粒の外側と内側の分析)を行った。 [長野県白馬村] 調査地域はほとんどが蛇紋岩であり4地点でのみ斑レイ岩が採取された。薄片には高圧型のアンチゴライトが多くタルクや方解石の脈がみられた。各元素の平均値は,TOC 0.057%,炭酸塩C 0.127%,TH 1.04%,TN 0.006%,TS 0.016%であり各元素間に相関は認められなかった。炭化水素は鉱物粒子外側に奇数優位性をもつn-アルカン(C25-32)やホパン等の陸上高等植物とバクテリアの影響が見られ,鉱物粒子内側ではそれらの影響はほとんど見られなくなったが一部では鉱物粒子内側にもホパンが検出された。フィッシャートロプシュ反応の特徴的な炭化水素(プリスタン・フィタンを伴わないn-アルカン)はどの試料にもみられなかった。 [中国地方中部地域] 調査地域は蛇紋岩化したハルツバージャイト優勢超塩基性岩で,斑レイ岩(10試料)が伴われた。赤い蛇紋岩も確認され,網目状の炭酸塩岩脈に赤鉄鉱が伴われたことから,この蛇紋岩は海嶺系の比較的浅いところで炭酸塩に富んだ熱水によって酸化されたことが示唆された。各元素の平均値は,TOC 0.097%,炭酸塩C 0.142%,TH 0.939%,TN,TS 0.041%であり,各元素間に相関は認められなかった。鉱物粒子の外側と内側の両方で陸上高等植物に由来する高分子n-アルカンおよびバクテリア起源のホパン類が検出され,それらを溶解した熱水が鉱物内部まで入り込んだ可能性を示唆した。 以上のことを総合すれば,初年度にはフィッシャートロプシュ反応の炭化水素が起点になってバクテリア活動が生じている傾向は見られなかったが,予想以上にバクテリア有機物が鉱物粒子内またはタイトな鉱物粒間にまで入り込んでいることが見いだされたことは新規な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は,初年度の2019年度に中国地方中部地域の調査と岩石試料採取を行い,2020年度に長野県白馬村の調査と岩石試料採取を行う予定であったが,2019年5月に第一回目の中国地方中部地域の調査を行った結果,両地域を同時並行的に比較しながら行ったほうが緻密な調査が行えまた分析も同時に進めることが手法等の習熟度を同じレベルにして正確な両地域の比較を可能にすると判断されため,2019年度に両地域の調査を行うに至った。そのため,進捗的には進んでいるように見えるが,その分IODP Expedition 357(Atlantis Massif)により採取されて島根大学に保管されている試料の分析等が先送りされたため,全体的には概ね予定どおりの進行と評価される。 2019年度は,飛騨外縁構造帯の長野県白馬村八方尾根東-岩岳山南地域(中部山岳国立公園は含まれず,その外側東方の地域)および三郡帯の中国地方中部地域鳥取県日南町多里三坂・広島県庄原市白滝山-道後山・岡山県新見市神郷高瀬-足立において,それぞれ6日間(6/29,6/30,7/1,9/8,9/9,9/10)と5日間(5/5, 9/5, 9/16, 10/6, 10/20)のルート地質調査および岩石試料採取を行い,岩石薄片観察,炭素・水素・窒素・イオウ元素分析(長野52試料・中国地方41試料)およびGC-MS分析(鉱物粒の外側と内側の分析,長野11試料×3回・中国地方12試料×3回)を行った。これらの調査・分析は順調に進行した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,2019年度の結果に基づき東方への拡張調査が必要と判断された中国地方中部地域において岡山県真庭市の田口地域を追加し,当初予定していた岡山県新見市大佐山地域を組み合わせて調査・岩石試料採取を行う。岩石試料は2019年度に既に合計93試料採取しているため,2020年度は30試料ほどの採取を行う。また2020年度は併せてIODP Expedition 357(Atlantis Massif)により採取されて島根大学に保管されている39試料を用いた検討を行う。この試料については既に一部(6試料)のGC-MS分析結果が三瓶ほか(2018)で学会発表されていて方向性が見えており,分析を追加してその解釈の検討と新たな視点の開拓を行う。これらの試料はいずれも変質した細粒物中に数mm~1cmの岩片集合体として存在し,その内訳は蛇紋岩優勢岩21試料,かんらん岩(一部蛇紋岩化)優勢岩5試料,玄武岩優勢岩8試料,タルク等優勢岩2試料,炭酸塩岩優勢岩3試料である。微小岩片ではあるが,可能なものは薄片も作成したい。また熱分析・ロックエバル分析も行う。 2019年度の結果では,鉱物粒子の外側から内側までバクテリア由来のホパンが検出されたことから,それを2020年度に行う結果と合わせて,当初立てていた作業仮説の「最下部地殻から最上部マントル由来岩石に存在する①熱水または続成作用によって生成され周辺堆積物へ移動し取り込まれた石油炭化水素,②サブダクションから上部マントルに供給されて分解し残っていた炭化水素類,③FT反応で生成されたn-アルカン等,④バクテリア活動が生成した炭化水素・脂肪酸類,の4者のうち岩石試料の鉱物粒子外側・開放系岩石クラック中では④が大勢を占め,FT等の炭化水素類はそのエネルギー供給物として存在している可能性」の真偽を見定め修正説の構築を行う。成果の学会発表等については,新型コロナウイルスの影響はあるが,開かれる見込みがあれば参加して成果を発信する。
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Research Products
(1 results)