2020 Fiscal Year Annual Research Report
褐藻類の有用多糖類およびカロテノイド類代謝関連酵素の探索と機能実証
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19H03039
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 晶 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (70396307)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 褐藻類 / マコンブ / ワカメ / 多糖類 / カロテノイド類 / ウロン酸 / アルギン酸 / ゼアキサンチン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までにクローニングした12種類のマンヌロン酸C5-エピメラーゼ(MC5E)候補遺伝子をコードするcDNAのうち、本年度は4種類の各組換えタンパク質の発現を昆虫細胞、大腸菌、枯草菌、および酵母を用いてそれぞれ試みた。しかしながら、いずれの場合でも可溶性の組換えMC5Eは得られなかった。次に、これらのうち1つのMC5Eについて3種類のタグタンパク質を融合し、それぞれ昆虫細胞および酵母による発現系を構築した。その結果、昆虫細胞を用いた場合に、1種類のタグタンパク質を融合させると良く分泌発現することが分かった。このようにして発現した組換えタンパク質は、タグと結合する担体を使用して、培地から精製することができた。 既報のマコンブのアルギン酸リアーゼについて、ポリβ-1,4-グルクロン酸に対する分解能を調べた結果、アルギン酸を基質とした場合よりも高い分解活性が検出された。これまでに本ウロン酸の海洋環境での分解能は全く知られていなかったため、他の海洋生物についても調べ、褐藻類だけでなく軟体動物もこれを良く分解する酵素をもつことを明らかにした。 カロテノイド類の生合成関連酵素ついては、β-カロテンを合成できるように組換えバキュロウィルスを感染させた昆虫細胞を使用して、ゼアキサンチンを生じる酵素の解析を進めた。ワカメには3種類の候補タンパク質がトランスクリプトーム解析により見出されたが、1つのものだけがβ-カロテンを基質とし、変換できることが分かった。この酵素による反応産物については、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、および質量分析により、ゼアキサンチンであることが明らかになった。さらに、ゼアキサンチンの変換に関わると推定されるワカメの3種類の候補タンパク質をコードするcDNAをクローニングし、組換えバキュロウィルスを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた解析対象のタンパク質の組換え酵素の発現が困難であったが、宿主、ベクター、培養条件、および融合タンパク質などの検討を進め、この問題を解決する糸口と考えられる成果を得た。この方法は、目的の褐藻タンパク質だけでなく、他の可溶性タンパク質を得ることが難しいものに対しても適用できる可能性があり、その場合には、一般的な有用タンパク質生産手法への発展が期待できる。 当初の研究計画では予定していなかったが、本研究の遂行により、海洋環境では初めてポリβ-1,4-グルクロン酸分解酵素をもつ生物が存在することを明らかにした。この多糖と同じ構造をもつ化合物は、セルロースから半人工合成多糖として安価に生産できることが知られており、今後の需要増大が見込まれている。そのため、海洋におけるその生分解性に関する新しい知見は、重要な情報と考えられる。 カロテノイド類の生合成に関する研究では、β-カロテンを変換する酵素を発見し、その反応産物について詳細な解析を行い、ゼアキサンチンであることを明らかにした。この酵素は、アミノ酸配列からその機能を予測することは困難であり、本研究によるタンパク質レベルでの実験の遂行によって見出された意義は大きい。 以上の進捗状況を考慮し、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
MC5Eについては、可溶性の組換えタンパク質を得られないことが問題であったが、タグを融合することで、分泌発現が可能であることを示唆する結果が得られた。本法は、発現が難しい他のタンパク質にも有効である可能性が考えられるため、本発現系を褐藻の各種タンパク質に適用し、汎用的にタグの融合が有効であるのか検証し、組換えタンパク質の性状解析を進める。対象とするタンパク質は、MC5Eに加えて、既にcDNAクローニングを完了したマコンブ由来ラミナラン分解酵素およびアルギン酸分解酵素候補タンパク質を予定している。 海洋環境では、褐藻や軟体動物がポリβ-1,4-グルクロン酸を分解できる酵素をもつことを見出した。今後は、これらの酵素について、キネティクス解析および分解物の解析を進め、水圏環境ではほとんど知られていないポリβ-1,4-グルクロン酸の生分解様式の解明を目指す。 本研究の成果として、アルギン酸生合成生物では初めてアルギン酸の酵素分解によって生じる不飽和単糖由来化合物還元酵素の発見がある。しかしながら、アルギン酸資化細菌由来の同種の酵素と比較するとその生成物には異なる点が見られた。そのため、両者のアルギン酸分解・代謝経路は同一ではない可能性が示唆されたため、この経路に関わる酵素の機能解析を進める。 カロテノイド類については、褐藻においてゼアキサンチンがどのような酵素により変換されているのかについて調べる。すなわち、ゼアキサンチンを基質とすると推定される候補タンパク質のcDNAのクローニングと組換えバキュロウィルスの作成を進め、ゼアキサンチンを合成できるように5種類の外来遺伝子をバキュロウィルスにより導入した昆虫細胞に共感染させる。培養後、細胞内に蓄積したカロテノイド類を抽出し、その成分について各種クロマトグラフィーおよび質量分析により調べる。
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Research Products
(4 results)