2021 Fiscal Year Annual Research Report
ニワトリの雌雄産み分けは可能か?ー鳥類性決定機構の解析を通してー
Project/Area Number |
19H03107
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
堀内 浩幸 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (80243608)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ニワトリ / 性決定 / Dmrt1 / HEMGN / PGC |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,鳥類であるニワトリの性を決定するマスター遺伝子ではないかと考えられているDmrt1遺伝子に着目し,本遺伝子をゲノム編集技術によりノックアウトする。本実験により,Dmrt1遺伝子ノックアウトのヘテロ接合体(Dmrt1+/-)やホモ接合体(Dmrt1-/-)を作出し,その生殖巣の特徴や周辺遺伝子の発現に与える影響を解析することで,ニワトリにおける性決定のメカニズムを明らかにする。特に周辺遺伝子としては,Dmrt1の下流に位置すると考えられ,ニワトリ独自の性決定に機能していると考えられているHEMGNに着目し,ゲノム編集によりこの遺伝子のノックアウト個体の解析も並行して実施する。得られた知見をもとに,産業面で極めて重要なニワトリにおいて,雌雄の産み分けが可能かどうかを検討し,応用展開をはかる。 ニワトリの性決定に関わるDmrt1に関して,Dmrt1が生殖巣を形成する体細胞で機能するだけでなく,生殖細胞自身の自律的な発現により,生殖細胞の分化を制御している可能性が明らかになった。そこで本年度は,胚発生の時間軸で精子形成過程を追跡したところ,減数分裂が進行している過程までは,ホモ接合体(Dmrt1-/-)であっても正常に精子の分化が進行していることが明らかとなった。これは哺乳動物の特徴と異なっており,鳥類特有の現象であることも示唆された。 ニワトリのオスの性決定に関わるHEMGNに関して,2020年度はΔHEMGNニワトリ(HEMGN+/-)のオス個体の表現型の解析を行なった。その結果,これまでのところ特徴的な表現型への影響は認められておらず,片アレルの発現だけで機能している可能性ともしくは他のバックアップ機構の存在が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ニワトリの性決定に関わるDmrt1に関して,Dmrt1が生殖巣を形成する体細胞で機能するだけでなく,生殖細胞自身の自律的な発現により,生殖細胞の分化を制御 している可能性明らかにした。具体的には,ZsGreen(緑色蛍光タンパク質)発現始原生殖細胞(ZsGreen-PGC)を樹立し,このZsGreen-PGCに対して CRISPR/Cas9によりDmrt1に変異を導入した。Dmrt1に変異を導入したZsGreen-PGCの中から,Dmrt1の両アレルに変異導入されたZsGreen-ΔDmrt1-PGC(Dmrt1-/-) をクローニングし,初期胚へ移植したのち,緑色蛍光の発現を追跡することで,Dmrt1の生殖細胞自身の自律的な発現による生殖細胞の分化に与える影響を解析した。その結果,Dmrt1に変異を導入していないZsGreen-PGCは,正常に精子分化が進行し,移植したZsGreen-PGCから緑色蛍光を発する成熟した精子が観察された。本年度はZsGreen-ΔDmrt1-PGC(Dmrt1-/-) の精子分化のどの過程で停止しているかを探索し,減数分裂期までは正常に分化していることを明らかにした。 ニワトリのオスの性決定に関わるHEMGNに関しては,2021年度はΔHEMGNニワトリ(HEMGN+/-)のオス個体の表現型の解析を行なった。その結果,オスの生殖腺やその他の表現型には影響がなく,片アレルの発現だけで機能している可能性と,もしくは他のバックアップ機構の存在が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,引き続きDmrt1が生殖巣を形成する体細胞で機能するだけでなく,生殖細胞自身の自律的な発現により精子の分化に機能していることの確証的なデータを得る。手法は,2021度までの手法と同様にZsGreen-ΔDmrt1-PGC(Dmrt1-/-) を用いて,減数分裂期以降の精子分化を観察する。また2021年度には,ZZ-PGCとZW-PGCで胚発生過程で変動する遺伝子発現プロファイルをRNA-seqによりデータの収集を行った。この遺伝子発現プロファイルから,PGCが精子や卵子へ分化する過程で重要な遺伝的要因を明らかにする予定である。ΔHEMGNニワトリでは,まだ未解析であるHEMGN-/-のオス個体の表現型の解析を行い,HEMGNのオス化に関わる機能を明らかにする予定である。2022年度は,以上,3つの大きなテーマについてそれぞれ論文発表を行い,最終的にこれらを統合して,ニワトリにおける性決定機構における体細胞側の影響と生殖細胞自立的な細胞分化に新たな知見を加え,当初の目的であるニワトリにおいて,雌雄の産み分けが可能かどうかの結論を導きたいと考えている。
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Research Products
(11 results)