2020 Fiscal Year Annual Research Report
放射能汚染地域における自然・社会関係の回復に向けた社会的過程の国際比較研究
Project/Area Number |
19H04341
|
Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
藤川 賢 明治学院大学, 社会学部, 教授 (80308072)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片岡 直樹 東京経済大学, 現代法学部, 教授 (60161056)
除本 理史 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60317906)
石井 秀樹 福島大学, 食農学類, 准教授 (70613230)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 放射能汚染 / 環境再生 / 農と暮らしの復権 / 農業再建 / 地域再建 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、旧居住制限区域における避難指示解除後の地域再建・農業再建をめぐる調査と考察を中心に進めた。被災によって人口が急減し高齢化したこれらの区域においては、人口と産業の回復を目指す上でも、環境保全のためにも農林業の重要性が高い。だが、産物への評価を含む放射能の影響の残存、担い手の減少と高齢化といった影響もあり、原発事故以前の農林業をそのまま取りもどすことは困難である。その対応として、復興支援事業を活用しつつ規模拡大をめざすのか、限られた人的資源で可能なところから着手していくのか、方向性は大きく2つに分けて考えられる。数として目立つのは前者であるが、その持続可能性を支えるためにも後者も重要であり、実際に、前者の方向での事業においても機械化農業に向かない農地や高齢化しつつある(旧)農業者などの活用がさまざまに試みられている。 本研究では、豊かな土壌、よりよい作物、消費者の信頼、土地と人の豊かな関係、地域の持続可能性などを取りもどす実践例に着目し、それを支える基盤について考察した。そこから、「農と暮らしの復権」の提起にいたった。 歴史的に自給型の小規模農家が多かったこの地域では兼業化が進んでからも、豊かな自然や歴史的な伝統行事などとの関わりが深く、「農」にも経済活動に限らない多様な意味が付与されていた。帰還を望んだ人の多くもそうした「暮らし」の回復を求め、帰還しなくても関係性の維持に努める人も多い。だが、現実にはその回復は困難で、立場や利害が多様に分かれてしまった地域では話し合いのためにも時間が必要である。他方、帰還政策や復興事業の中には性急に選択を求めるものもあり、新たな分断を招く恐れも生じている。それを防ぐためにも社会全体として農と暮らしの意味を共有することが求められる。それについての調査報告と考察を下記の書籍などにまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はCOVID-19の感染拡大および緊急事態宣言とほぼ重なる形で進行した。本研究計画は半年間の期間延長を認めていただき、全体としては相応の成果を得たが、その進捗には若干の偏りがある。 2020年度の中心的課題だった書籍は完成を得た。各章では、南相馬市と飯舘村におけるナタネ栽培における地域間協力と営農再開支援、中通り地域の農地汚染除去をめぐる司法判断と現地農業者の活動、「ふるさと喪失」をめぐる賠償・責任の課題と「ふるさとの再生」に向けた「通い農業」、避難指示境界部における小規模兼業農業の再開、田村市都路地区における長期的な山林再生の事例をそれぞれ紹介している。執筆を通して、各地域の方々、研究者、および研究グループ内での応答を重ねた。対面での調査や研究会などの開催が困難で、オンラインだけでは相互理解に不安を残す場合もあるので、文書の応答とオンラインを併用した研究交流は効果的だったと言える。 福島県での現地調査の回数はかなり限られたが、内容としては成果があった。上記の書籍に関するものの他、発見も少なくない。とくに「農」と「林」との接点については、キノコ栽培など農林業としての一体性のほか、多様な機能を学ぶとともに、復興事業にともなう伐採・土砂採取、除染・再生利用実証事業、ソーラーパネル、用排水路整備などに関する課題にも触れた。社会関係の変化との関係も含めて、今後の研究課題を整理しているところである。 関連して、いわゆる「自主避難」など避難指示対象区域外での被害や再建事業、産業公害など他の地域環境汚染問題との比較を含めた考察も深めることができた。ただし、ヒアリング調査が落ち着いていない部分もあり、これについては今後の課題である。同じく、国外の事例との比較研究についても文献資料を中心に進めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究に関しては、すでに着手している部分もある。上記の「農」と「林」、避難指示区域とその外側、帰還(居住継続)と避難(継続)などとの連続性がその中心である。これらについては分断が指摘された点も多く、原発事故後の経過をふりかえる意味でも見直していく必要があると考えている。関連して、かつての公害などに関する経験の継承を進める活動、原子力政策の動向などの調査・考察も進めている。 関連してこれから重点的に調査を進めたいのは関係性の回復に関する側面である。感染症対策との関係もあって、地域再建の中でも伝統行事や共同作業などの復活には停滞が生じた。その一方、人とのつながりが再評価された面もあり、新たな活動も生まれている。これまでの調査地域を中心に、事例間の共通性などを確認しながらフィールドワークを重ねる予定である。
|