2019 Fiscal Year Annual Research Report
代数曲線の族に付随する基本群スキームの比較準同型の研究とその応用
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19J00366
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小田部 秀介 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 基本群スキーム / 有限平坦主束 / 逆ガロア問題 / 埋め込み問題 / ルートスタック / 単純群スキーム / Cartan型Lie代数 / 一般Kostrikin-Shafarevich予想 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績として, 可解群スキームに対する純非分離Abhyankar予想の完全解決および単純群スキームに関する同予想を標数7以上の場合にアフィン直線に対して解決したことが挙げられる. まず可解群スキームに関してだが, 実際は分岐制限を設けた, より精密な形での完全解決に成功した. 即ち一点を除いて従順分岐な主束で全ての有限連結可解群スキームが実現可能であることを示した. 但し一般の有限平坦主束に対する従順分岐の定義として, ルートスタックと呼ばれる代数的スタックを用いるものを採用した. 国外の専門家2名によるフィードバックを足がかりにして研究を進めた. またシカゴ大学を訪問し, 基本群スキームの専門家と議論を重ねたことで実際の解決方策を得ることができた. 埋め込み問題をgerbeの言葉で解釈することが本質的であった. 成果を反映させる形で論文の改訂を行い, 2020年2月に雑誌Math. Nachr.に受理された. 単純群スキームに関しては, フィレンツェ大学のFabio Tonini氏と香港中文大学のLei Zhang氏との共同研究である. まず有限連結非可換単純群スキームの分類は有限次元(非可換)単純Lie代数の分類と同値であることが知られており, 後者は標数5以上の場合は一般Kostrikin-Shafarevich予想と呼ばれ, 2000年代に確立された. この分類定理を基にして, 各単純Lie代数に対して逆ガロア問題を解いた. まず単純Lie代数のうち, 古典型と呼ばれるものは複素単純Lie代数の正標数への還元として定義され, この場合, 主張は自身の代数群のフロベニウス核に関する自身の先行結果の系となっている. そこでCartan型と呼ばれる非古典型Lie代数が問題となるが, これを克服した. この成果を共著論文としてまとめ, 2020年3月に専門誌に投稿した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に, 埋め込み問題によるアプローチに関して基本的な枠組みの整備が進んだため. 特に有限群スキームの間の全射の核が可解の場合は十分な成果と言える. またこの場合, gerbeによる解釈も得られ, 技術的な難しさは残されており具体的な方策は得られていないものの, 一般の状況下でのアイデアを与えると期待できるため. 純非分離Abhyankar予想に限っても, 埋め込み問題の方法を整備したことにより, アフィン直線の場合に帰着させるためのアイデアが得られた. まだまだ実際の解決にはほど遠いと認識しているが, 古典的な場合と同様にアフィン直線の場合が本質的であるという認識を持つに至った. そのためフロベニウス捻りの差による反例の可能性も薄いだろうという期待も持てる. またアフィン直線の場合の単純群スキームによる反例の可能性は標数の仮定の下で排除することができたため. 第二に, 有限単純連結群スキームの分類及び各単純群スキームの構造, 表示, 生成系, 標数0への持ち上げに関して理解が進んだためである. 少なくとも標数5以上の場合, それらが高さ1の可換冪零群スキームで生成できることを確かめることができた. さらに単純連結群スキームに対応するLie代数の標数0への持ち上げの有無について理解が進み, 基本群スキームや有限平坦主束の還元・持ち上げの研究の際に活かせると期待できるため. また各単純群スキームや対応する単純Lie代数の構造, 特に生成系や自己同型群の理解が進んだことで, 様々な研究課題においてテストケースとして今後も活用できると期待できる. 第三に, 分類空間の有理性問題という新たな方向性を見出せたためである. 有限平坦主束の持ち上げや還元・退化の理解のためにはそれらを分類するモジュライ空間の解析が必要だが, 分類空間の有理性問題はより基本的・根源的と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
ただ本年度, 計画を大幅に変更したため, 当初主な課題としていた有限平坦主束の持ち上げ・還元の研究に関しては進歩状況は遅れていると言わざるを得ない. また線型簡約群スキームに対しては, 曲線上の主束のモジュライ空間のコンパクト化や平坦性及び局所完全交叉性などが知られているが, 一般の有限群スキームに関しては解決方策も立っていない. それに合わせて来年度も計画を変更して基礎理論の整備を行う予定である. 第一に, 前項目で述べた分類空間の有理性問題が挙げられる. 分類空間は各群スキームに付随する分類スタックの代数的な代替物として考えられ, 有理性問題はその構造の複雑さを問う. 代数曲線上の主束の持ち上げや還元とは趣向の異なる課題であり, 純群論的な問題と言える. より基本的・根源的であるが, 一般に有理性の判定は容易ではない. また特に分類空間のレトラクト有理性は主束の持ち上げ問題の言葉で特徴付けることができ, 当初の研究課題の推進のための良い指針を与えると同時に群論的整備も進むと考えている. 第二に, 従順分岐主束の場合に持ち上げ・還元を調べる. 線型簡約群スキームの場合は既にある程度進展はあるため, さらに研究を進める. 一般の有限群スキームの場合においても従順分岐主束は比較的扱いやすいと考えているため, まずはこの場合への拡張を目指す. 第三に, 主束やガロア被覆のモジュライ等に関する先行研究との関係を整理する. 例えばピカール関手の特殊化に関するRaynaudの古典的な結果との比較を行う. Tame基本群スキームのモジュライ依存性への応用についても開代数曲線の族の場合は十分な整理がなされているとは言えないので, これについても研究を進めていく.
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