2019 Fiscal Year Annual Research Report
単独行為規制における市場支配力の転用の評価のあり方-「梃子」の議論を足掛かりに-
Project/Area Number |
19J00603
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宍戸 聖 大阪大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 独占禁止法 / プラットフォーム / 独占の梃子 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、プラットフォーム産業の発展に伴い、従来想定されなかった新たな取引慣行が散見されるようになり、市場の多面性によって排除効果が増幅され、それによって一見競争促進的な行為を通じて競争者排除の効果が生じる場合の問題や、市場支配的な企業が情報の集積を独占的に保有し、それを通じて獲得した市場における優位性を利用して排除を行う場合の問題など、従来検討されてきた要因のみでは説明出来ないような形での排除効果の発生が懸念されており、プラットフォーム産業における排除の識別は重要な課題となっている。 このような問題意識を前提として、これまでの研究の蓄積をもとに、プラットフォーム産業を中心に懸念される、従来想定されてこなかったような類の排除の識別の在り方を検討することが本研究の目的である。 研究をすすめるにあたっては、プラットフォームビジネスにおける市場の多面性による排除効果の増幅の問題や、情報の集積の利用を通じた排除は、獲得した何らかの力の拡張、拡大を通じた排除という意味において、従来から議論されてきた独占力の「梃子」の問題として捉えることが可能ではないかという仮説を立てた。 初年度は、この仮説をもとに、これまで日本では論じられてこなかった、独占の「梃子」の定義やその効果、理論に対する批判等について、米国の文献を中心に網羅的な研究調査を行った。 また、上記の作業と並行して、これまでの研究の蓄積を本研究に応用するために、市場支配的事業者による廉売行為の不当性識別のあり方に関する議論を論説論文として公表した。不当廉売行為に焦点をあてた研究成果については、研究会報告を2回行い、また、国際学会への論文投稿も行った(2020年3月現在査読中)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり、初年度は「梃子」理論の概要について、主に米国の資料を中心に研究調査を行った。なかでも、重要と思われる文献であるLouis Kaplow, EXTENSION OF MONOPOLY POWER THROUGH LEVERAGE, 85 Colum. L. Rev. 515(1985)の解釈にフォーカスして研究調査を行った。なお、このような作業と並行し、多面市場における独占力の転用の問題を論じるうえでの重要なパーツとなる不当廉売規制に関する基礎的な研究成果の公表も行った。この成果については、クローズドな研究会ではあるが、英語での報告も行っており、諸外国の識者からのフィードバックを得ることが出来た。上記の成果は、複数の市場を観念しなければ悪影響を把握できないようなタイプの廉売を懸念する必要について、不当廉売規制一般の文脈で論じたものである。今後は、この議論を発展させることで、上述のようなプラットフォーム産業を想定した独占力の転用の問題をより具体的かつ多角的に論じることができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
公表した論文の中では、ある市場における優位性を利用した競争者排除戦略として廉売が利用される場合があることを論じており、翌年度以降の研究では、この議論が、プラットフォーム産業における市場のある側面での優位性の他の側面での利用と不当な排除の関係性を論じるうえでの重要なパーツとなることを見込んでいる。今後は、梃子理論に関する研究調査と不当廉売に関する研究成果をもとに、日本法における独禁法上不当な梃子は存在しうるのか、そして、存在するとしてどのようなものかを論じる予定である。また、単独事業者による取引拒絶に関する研究についても、本研究への応用を見込んで公表を試みる予定である。
|
Research Products
(5 results)