2019 Fiscal Year Annual Research Report
せん断型疲労き裂の進展特性に及ぼすき裂面相互干渉の影響の定量的評価に関する研究
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19J10689
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 佑弥 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | せん断型疲労き裂 / 下限界特性 / き裂面干渉 / 摩擦 / Ni基超合金 |
Outline of Annual Research Achievements |
き裂面における摩擦抵抗が,せん断型疲労き裂の進展挙動や下限界条件に及ぼす影響を解明するため,当該年度は種々の応力条件下における疲労き裂の進展下限界特性の調査および,せん断型疲労き裂面における微小な繰返し往復すべりに起因した摩擦特性の基礎的知見の収集を行った. 供試材にNi基超合金Alloy718を用いて引張圧縮疲労試験を行った.観察の結果,荷重軸と約45°をなす最大せん断応力方向へのき裂発生・進展が確認されたが,この面には繰返しせん断応力と同位相の繰返し垂直応力も作用する.き裂面に垂直な圧縮応力が作用すると,き裂面における摩擦抵抗が増大し,き裂の進展抵抗は増加する.一方,き裂面に垂直な引張応力が作用した場合は上記のき裂進展抵抗は減少する.本研究では,き裂面に垂直な応力が作用しない条件であるねじり疲労試験も行い,両疲労試験で得られたせん断モードにおける下限界応力拡大係数範囲の比較を行った.引張圧縮疲労試験の結果はねじり疲労試験の結果よりも低い値を示したが,これにより引張応力によるき裂進展抵抗の減少効果が圧縮応力による進展抵抗の増大効果を上回ることが明らかになった.得られた結果を国内会議において発表した. せん断型疲労き裂面におけるすべり量はサブミクロンオーダーとなり,その摩擦特性は比較的大きなすべり量の下で発現する特性とは異なると考えられる.すべり量の減少はすべり速度の低下を引き起こすため,摩擦特性に及ぼすすべり量減少の影響と,すべり速度低下の効果を分離して検討する必要がある.そこで,軸受鋼SUJ2を用い,すべり量と試験周波数の組合せを変えた摩耗試験を実施し,すべり速度の低下に伴って動摩擦係数も低下することを明らかにした.得られた結果を国際会議において発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
せん断型疲労き裂の進展・下限界特性に及ぼすき裂面干渉の影響については,これまでに複数の研究グループによって,①圧縮応力下でのき裂面干渉の増加によるき裂進展抵抗の上昇効果,および②引張応力下でのき裂面干渉の減少によるき裂進展抵抗の低減効果,が定性的に示されてきた.しかし,例えば繰返しの引張圧縮下において荷重軸と傾いた方向に進展するせん断型疲労き裂のように,①と②の両者が重畳して作用する場合,どちらの効果が支配的となるのかという点については明らかでない.このような状況の中,本研究では,せん断型疲労き裂面に作用する垂直応力を変化させて疲労試験を実施することにより,②の効果が①の効果を上回ることを定性的に実証した.また,同一材料の組合せであっても,摩擦部の接触状態や摩擦係数の違いによって進展抵抗への寄与は変化することが予想されるため,き裂面における摩擦・摩耗に関する知見の構築は,せん断型疲労き裂の関与する工学問題を解決する上で欠くことのできない課題である.本研究で示された動摩擦係数のすべり速度依存性の学術的意義は大きいと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は①圧縮応力下でのき裂面干渉の増加によるき裂進展抵抗の上昇効果と②引張応力下でのき裂面干渉の減少によるき裂進展抵抗の低減効果が重畳して作用する場合,②の効果が①の効果を上回ることを定性的に示した.本年度は,両者の効果の定量化を行う.まず,き裂面に垂直に作用する引張応力の関数としてき裂進展抵抗の下限界値を取得し,②の効果を定量的に説明可能なモデルを構築する.その後,完成したモデルを用いて①と②の効果が重畳した結果から②の効果を分離して①の効果のみを抽出する.その後,①の効果をモデル化する.モデルの妥当性については,申請者が開発したRing-on-ring試験法を用いて検証を行う予定である.
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