2019 Fiscal Year Annual Research Report
食と腸内細菌によるPaneth細胞分泌メカニズムからみた腸内環境ネットワーク
Project/Area Number |
19J11999
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
横井 友樹 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 粘膜免疫 / Paneth細胞 / 自然免疫 / 腸内環境 / 分泌 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管は食べ物と一緒に口から侵入してくる様々な病原体や共生している腸内細菌に常に曝されている。これらが体内に侵入することを防ぐために、腸管は発達した粘膜免疫を有している。中でも小腸上皮細胞の一系統で、陰窩基底部に位置するPaneth細胞は抗菌ペプチドα-defensinを豊富に含む顆粒を腸管内腔へ分泌することで病原体を排除し、腸内細菌叢の組成を正常に保つことで腸内環境の恒常性を維持している。Paneth細胞の異常と様々な全身疾患が関与することが知られており、Paneth細胞顆粒分泌の制御メカニズムを明らかにすることが疾患に対する新規予防法、治療法を確立する上で重要である。申請者らはこれまでに小腸上皮細胞の三次元培養系であるenteroidを用いて、Paneth顆粒分泌応答を可視化・定量化することによるPaneth細胞機能評価系を確立し、Paneth細胞がコリン作動性刺激を基底膜側で、細菌刺激を内腔側で認識して顆粒分泌することを明らかにした。しかし、Paneth細胞が腸管内腔のどんなリガンドをどのように認識して顆粒を分泌するに至るかは未だ不明である。本研究は、腸管内腔に存在する食や腸内細菌の感知から、顆粒を分泌するまでのメカニズムを明らかにすることを目的とする。令和元年度はPaneth細胞が基底膜側からのコリン作動性刺激に応答して顆粒を分泌することに着目し、小腸上皮下でPaneth細胞に近接して存在するコリン作動性神経がコリン作動性リガンドであるアセチルコリン (ACh)をPaneth細胞に供給することを示した。さらに、enteroidを用いたex vivo解析により、AChによるPaneth細胞顆粒顆粒分泌のムスカリン性M3受容体を介した細胞内シグナル伝達経路を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究全体の目的である腸管内腔におけるリガンド認識からPaneth細胞顆粒分泌に至る経路解明のうち、令和元年度はPaneth細胞が神経性AChを起点として、M3受容体シグナル伝達を介して顆粒を分泌するまでのメカニズムを示した。蛍光免疫染色した小腸組織を透明化処理することで得られた高解像度三次元画像を解析すると、ACh合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼ (ChAT)を発現する神経終末がPaneth細胞基底膜側に近接して存在していた。この結果は上皮下コリン作動性神経がAChを放出することでPaneth細胞の顆粒分泌を制御していることを示唆する。 また、Paneth細胞がAChを受容して顆粒を分泌するまでの細胞内シグナル伝達経路を探索した。ACh受容体サブタイプはお互いに相同性が高く、また材料となる単離Paneth細胞のtotal RNA量は微量であるため、これまでPaneth細胞のmRNA発現解析は困難であった。そこで、高感度かつ特異性の高いnested PCR法を確立し、Paneth細胞に発現するムスカリン性ACh受容体およびニコチン性ACh受容体を特定した。それぞれのACh受容体サブタイプに選択性の高い阻害剤でenteroidを処理することで、Paneth細胞顆粒分泌を評価して、Paneth細胞がM3受容体でAChを受容することによる細胞内シグナル伝達経路を用いていることを示した。さらに、M3受容体の下流でプロテインキナーゼCおよびイノシトールトリスリン酸受容体が細胞内カルシウム濃度上昇を誘導して顆粒分泌に至る詳細な過程を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、腸内リガンド認識からPaneth細胞に刺激が伝達される経路を明らかにするために、まず、Paneth細胞とコリン作動性神経が機能的に接合しており、腸管内腔でのリガンド感知からコリン作動性神経を介してPaneth細胞が顆粒を分泌することを証明する。そのために、カルシウムセンサーの発現マウスを用いたin vivoイメージングを計画している。具体的には、腸管内腔へ食成分や菌体成分を投与した時のPaneth細胞と神経細胞の細胞内カルシウム動態をそれぞれ時間、空間的に解析することで、Paneth細胞に刺激が伝わる細胞間情報伝達経路を明らかにする。In vivo解析により明らかした結果に基づいて、腸管神経細胞をenteroidと共培養して、上皮下神経細胞を介したPaneth細胞分泌応答制御をex vivoで検証する。さらに、Paneth細胞の形態異常や機能欠損との関与が報告されている炎症性腸疾患であるクローン病および肥満症に着目して、それぞれのモデルマウスからenteroidを作製し、Paneth細胞の顆粒分泌応答を定量化して正常マウスと比較検討することでこれら疾患の発症メカニズムを明らかにする。
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